蛍の絵
小さな、小さな、光。
きらきらと輝いてて、星が僕の周りを飛んでいるみたいだ。
君の、欠片(かけら)達。
「―…お前がそんなものを触るのは珍しいな」
カタカタ、と渇いた機械音に、リョウスケは言葉の割に感情のこもらない声で、声をかける。
ソファに深く背を預け、軽く折り曲げた膝の上に乗せたノートパソコンのキーを叩いていたヘッドは顔を僅かに上げ、応える様に視線を向ける。
「…リョウスケさんか」
元々、出不精なせいかあまり血色のよくない肌色をしているが、薄暗い部屋で、パソコンのライトに照らされているせいで、いつも以上に青白い不健康そうな顔色に見える。
そんな事を指摘しても目の前の男はさらり、と軽く受け流すのだろうが。
「パソコンくらい俺だって触るよ。使う用事がそんなにないだけで」
くすり、と笑みを浮かべるその表情は何だか楽しげで、あまり見ない表情だった。
そんな些細な事にふと疑問が湧く。
「―ねぇ、リョウスケさん」
「今日、面白い子に会ったんだ」
「いや、それじゃあ語弊があるかな…」
「―なまえに、驚く位よく似ている女の子に、会った」
リョウスケの表情が、ほんの僅かに強張る。それと同時に、脳裏に、以前浜辺で会った少女の姿が浮かぶ。
明確な言葉にしていないのに、不思議と確信めいたものがあった。
むしろ、その事に思い至らない方が有り得ない様に思えた。
「アケノ・ナマエ…似てる…」
思い返すだけでも、本当に別人だったのだろうか、と疑問が湧いてくる。
彼女は面差しがある、なんてレベルじゃない。
本人を目の前にした様な、纏う雰囲気、声、笑い方、仕草。
「―…あぁでも、1つだけ、あの子とは似てないみたいだ」
面白がるような笑みに深意は感じられなくて、ただ純粋に笑みが浮かんだようだった。
「絵が苦手らしい。なまえは特別上手って訳でもなかったけど、苦手でもなかったからね」
なまえは何事もそつなくこなす、むしろこちらとしてはもう少し頼ってくれても良いんじゃないかと思うくらいの子だった。
それはそれで文句があった訳ではないし、何より、彼女のそういう部分も含めて、愛おしい存在だった。
くすくす、と思いだした様に笑うその笑みは、出会った頃の彼の笑った顔で、リョウスケはあぁ、と納得がいったように心の中で呟く。
今も、この男は思い出の中だけで、息をしているのだと。
「それで、お前はその子を、どうするつもりなんだ?トキオ」
「どうしようか?」
「お前…」
責めるような視線を向ければ、リョウスケさんの考えている様な事はないよ、と僅かに呆れの籠った声音で返される。
「―…なまえの代わりなんて、何処にもいないよ。俺はそんなものは、要らない」
いつだって求めているのは、今も帰りを待ち続けているのは、彼女だけだ。
見た目や雰囲気や声が似ていても、“彼女”でなければ意味がない。“彼女”でないものは、“彼女”じゃない。
彼の瞳に鋭く宿る狂気は、最早愛と呼べるのだろうか、と時々思う。
それと同時に、羨ましいと思う。
こんなにも感情を剥き出しで誰かに想いを向けられるこの男が。
そんな彼に、時を止めた様に今もなお色褪せる事なく強く思われる彼女が―。
「けど、似てるのも確かなんだ」
何処か遠くを見つめるヘッドの瞳は凪いでいて、穏やかだ。
「だからこそ、あの子が気になる」
「―なまえが失くしたものを持ってるあの子が」
―叶うなら、君の持つ星を、僕の大切な女の子にくれないか?
その子の胸の中はね、今はもう空っぽなんだ。
だから泣く事も、笑う事も、怒る事も、僕を愛する事も、忘れてしまったんだ。
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