ミラーハウスワールド
鏡よ鏡よ、鏡さん。
この世界で1番美しいのは誰?
―"それは勿論…"
「…―」
どうして夕暮れ時というのはこう、物悲しい様な、人寂しい様な気分になるのだろうか、と窓の外の夕陽を眺めながらぼんやりと思う。
数拍置いて、いや、と心の中で呟く。
原因はわかってる。今も焼きついた様に頭から離れない3人の光景のせいだ。
あの中に割って入りたいわけじゃない。
そういう事を望んでいるんじゃない。
願っている訳じゃない。
それなのに、胸のもやもやは一向に消え去ってはくれず、まるで傷が疼く様に違和感と不快感だけが増していく。
そのせいなのか、眉間に深く皺が寄り、表情が怒りとも哀しみとも違う何かで歪む。
目の前に置かれた真っ白なキャンバスの様に、何も思って無い筈なのに。
ナマエはまるで自分自身の中の答えを探す様にキャンバスを食い入る様に、何処か睨みつける様に見つめる。
「絵に興味を持ってくれたのかな?」
静かな、それなのにどこか弾んだ様な声に、僅かにピクリ、と肩を揺らす。
「ミヤビさん…」
数日前に初めてここで会った青年は、相変わらず柔和な笑みを貼り付け、美術室に小さな靴音を鳴らして入ってくる。
「何か描きたいものは見つかったかい?」
「いえ…」
ナマエから少し離れた場所に置かれた椅子に、座ると、ヘッドはくすり、と小さく笑う。
「焼けてるね」
す、と指さされ、はっとする様に頬を押さえる。
季節が本格的に夏に突入したのもあるが、ここ数日、球技大会の応援やら練習を見学してたりして太陽の下にいる事が多かったせいで腕や頬は以前よりも赤黒くなり、今も若干熱を持っている。
「へ?あ、あぁ、今日球技大会の練習見てたから…」
「南の島の日差しは本土よりも強いからね。でも見学って、君は参加しないの?」
「スポーツってあんまり得意じゃなくて…」
「俺が言うのもなんだけれど、青春は一瞬だよ?どうせなら、星が輝くみたいに、精一杯楽しむべきだ」
確かに、この人にそんな熱血な言葉は似合わないな、と声に出さず零す。
どちらかといえば、自分のように見ているだけか、或いは全く興味を示さないタイプの様に思える。
人は意外と見かけによらないな、ともう1度心の中で呟く。
「―だから、賭けをしようか」
「へ?」
唐突な提案にナマエは話を呑みこめず、きょとん、と目を丸くする。
今の会話の流れからどうしたら賭けの話になるか、さっぱり理解が出来ない。
「明日の球技大会、どちらのチームが勝つか」
「え、何を、賭けるんですか?」
「もし俺が勝ったら、君が今悩んでる事を相談して欲しいな」
「べ、別に相談する程の悩み、じゃ…」
「俺が相談して欲しいんだよ」
すう、と目が細められ、深まる笑みに、言葉に詰まったみたいに声が出せなくなる。
だけどそれは恐怖や畏怖で、というよりは、あまりの優しさの深さに怯んだという方がしっくりくるようだった。
その笑みに滲む優しさは何に対するものなのか、何故それを自分に向けるのか、ナマエは嬉しい様な、恥ずかしい様な感情と共に、言いようのない困惑も湧きあがるのを感じた。
「君はなまえの大事な友達で、俺にとっても大事な友達だ。そんな顔をされると、心配になって気になってしまうよ」
「じゃあ、私が勝ったら?」
「うーん、君の質問に何でも答えるっいうのは?俺ばかり色々聞いているからね」
これでも君の事は色々と知れたからね、と悪戯っぽい笑みを浮かべるヘッドに、何だか恥ずかしくなり、頬に熱がこもる。
「不満かい?それじゃあ、あぁ、そうだ。君の絵を描いてあげるよ。これでどう?イーブンじゃない?」
「絵!?私の!?ですか…!?」
いやいやいやっ、と両手を胸の前で振るが、ヘッドは勿論だよ、と気に留める様子もない。
どうやらこの賭けは拒否権なしで成立してしまったらしい。
「明日が楽しみだね。ナマエちゃん」
ナマエはヘッドにつられる様に、笑みを浮かべる。
―"今、鏡の中に映る、その人ですよ"
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