ふたりのこえ
君がいて、初めて僕の世界は世界の形になるんだ。
僕はその事を当然の事みたいに知っていたけど、当然の事みたいに、知らないふりをしてた。
「ナマエちゃん?」
毎日色んな人と出会う。
学校だったり、帰り道だったり、たまたま通った道だったり。
それはボクにとって生きる上ですっごく楽しい事の1つだけど、最近は特に楽しい。
今まで出会った事のないキラキラしてる皆に出会えたから。
その中で一際キラキラしてるのがタクト君。
かっこよくて、優しくて、王子様みたいな男の子。
タクト君は例えるならキラキラした一番星。
それで、キラキラしてるんだけど、タクト君みたいなお星さまじゃなくて、お月様みたいなのがナマエちゃん。
夜みたいな深い藍色の髪と目をしてて、すっごく優しく笑う女の子。
浜辺でナマエちゃんの色を見つけたボクはそのまま駆け寄って覗き込むみたいに声をかけた。
「あれ?ナマエちゃんじゃない…?」
覗き込んだ女の子はナマエちゃんにそっくりだったけど、違った。
ナマエちゃんみたいにキラキラした目をしてないし、というかガラス玉をはめ込んだ人形みたいに、何もないみたい。
「ごめんね、間違えちゃったや」
早とちりはボクの悪い癖だってマリノもよく言ってたっけ。
この話をしたらきっとまた呆れられちゃうな。
「君ナマエちゃんにそっくり!あ!もしかしてナマエちゃんのお姉ちゃん?」
「…違う」
波の音に掻き消えそうな小さな声。
それでも耳に届いたそれはやっぱりナマエちゃんのものにしか聞こえなくて、ボクはまたびっくりした。
見た目も声もそっくりなのに、喋り方とか雰囲気とかは全然違うもので、まるで2人のナマエちゃんと喋ってるみたいだ。
「そっかぁ…違うんだ。
お姉ちゃんだったらボクとマリノと一緒だなぁって思ったんだ。
あ、マリノは僕のお姉ちゃんでね、何でも出来るんだ!」
怒ると怖いけど、勉強教えてくれるし、ボクの好きなおかずわけてくれるし、すっごく優しい。
ボクの大好きなお姉ちゃん。
「君は何してるの?お散歩?」
「ん…」
「ボクは今日はカー助のお友達が来てて、一杯お喋りして、追いかけててたらいつの間にかここに来てたんだ!」
潮風に揺れる長い髪はナマエちゃんとは違って腰くらいまである。
ナマエちゃんは背中の真ん中に届くか届かないかくらいだから。
でも、風に揺れる時夜の海で波がゆらめいてるみたいに見える所はやっぱり2人共一緒だ。
「…」
あ、れ…?今の、何だろ…。
「…ねぇ。君は、誰だい?」
頭で考えたんじゃなくて、勝手に、口から零れ落ちた。
自分でも何言ってるんだろうって思うけど、でも、間違った事を言ってないって、変な確信みたいなのがあって、凄く変な感じ。
無気力に下ろされていたその人の手が、初めて動いた。
ゆるりと持ち上げられた左手がボクの頬に触れる。
氷みたいには冷たくないけど、ボクや他の人の手よりは冷たい掌。
ボクを見る瞳(め)はやっぱり静かで、何も見えない。
「…大魔王」
薄く色づいた口唇が静かにそう形作る。
一瞬だけ、何を言ってるのかわからなくて、へ、と間の抜けた声が出る。
「…魔法は、いつかは解ける」
ざわり、と何かに心臓を撫でられたような、何か気持ちの悪い感覚。
この人は、何…?この感覚は、何?
「…強く願えば、魔法は解けないよ」
「強い気持ちが、魔法を作るんだ」
信じる気持ちがないと、ダメなんだ。
どんな物語だって、信じる気持ちがないと魔法は使えない。
ピーターパンの妖精の粉も、信じなきゃ空は飛べない。
ボクの頬に触れていた手が滑り落ちるみたいに下ろされる。
少し目を細めただけで何も言わないその人は、怒ってるとかそんなんじゃなくて、やっぱり何も思ってないみたいだ。
「君にも、魔法がかかってるの?」
何かが足りないみたいな感覚は、きっとそのせい。
悪い魔法のせいだ。
「―大丈夫だよ」
「強い気持ちが魔法を作るけど、魔法を解くのも強い気持ちなんだよ」
だから大丈夫。
きっといつか、君の魔法も解けるよ。
不思議だね。
君は言葉にしないけれど、何処かで声が聞こえるんだ。
きっと魔法で閉じ込められてる、何処かにいる君の声だ。
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