あの場所で君を待ってる。

此処にいれば君が迎えに来てくれる。
そんな気がするんだ。

何も言わずにふらりといなくなっても君はいつも俺を見つけた。
どうしてわかるのか、何度聞いても彼女はちゃんと教えてくれなかったけど、何処にいてもちゃんと見つけてくれる。
それが嬉しくて、待っている時間をドキドキしながら、君の声が聞こえるのを楽しみにしてた。

今はもう、その声は迎えに来ない…。


「…」

茜色と藍色が滲んで混じり合う空はゆっくりと雲が流れて世界の時間も緩やかなものになったような錯覚を起こさせる。
このまま世界は止まってしまえばいい。
彼女のいない世界は俺にはいらない。


「―この公園で人に会うのは初めてだな」

小さな足音。
面と向かって会うのは初めてだけど、彼を知っている。
俺の希望で、絶望。
彼女を奪った少年。
彼のせいで、彼女は囚われてしまった。
彼女に1番近い場所にいる少年。

「うちの学園の生徒?あまり見かけないけど」

「知ってたかい?此処はこの島で一番夕陽が美しく見える場所なんだ」

指で額を作ってその中に景色を収める。
徐々に藍色に染まりつつある茜色の世界は本当に綺麗だ。
此処にくる途中何人かとすれ違ったけれど、皆こんな景色を気にも留めずに生きている。
とても勿体ない事だ。

『此処はこの島で一番夕陽が綺麗に見える場所なんだよ』

この場所を最初に見つけたのは、彼女だった。
彼女がこの島に来て間もない頃、飛ぶことを覚えたての小鳥みたいに目を離したらすぐにいなくなった。
そんな彼女を追いかける日々は不安で、でも、幸せだった。
そんな日々の残像の欠片が、この島の至る所に散らばっている。

「もしかして 絵を描く人?」

「そう。でも描きたいものがなくなってそれでしばらく絵筆を持たなかったんだが、やっぱりダメだね」

溢れる様に描いていた世界は今はもう白い絵の具を零したみたいに真っ白に染まって、何もない。
目には映っているのに、綺麗だと感じるのに、写し取る欲望みたいなものが湧いてこない。
同じものを見ている筈なのに、あの頃みたいに輝いていた世界は、もう随分遠いところにいってしまった。

「ダメ?」

「うるさいんだよ…」

頭の中で巡る。
景色がフラッシュバックするみたいに。

「もう描くのはやめようと頭で考えて納得したつもりでも、まだ描かれていないこれから描くべき絵が早くこの世界に出してくれって騒ぐんだ」

「…出たがっているなら出してやればいい」

淡々を装っていても何かを含んでいるのがバレバレだ。
彼は俺が誰だか知らないだろうけど、何か考えるものがあるらしい。


「―そうだね」

「才能は何か意味があって神様が与えてくれたものだからね。使わないのは罪かもしれない」

君が生まれながらに持つ大きな力を使う事を躊躇う事は無意味だ。
その為に巫女と同じように島に囚われているのに。
君の為になまえは囚われているのに。

「この辺りに住んでるのかい?また近くにきてみかけたら遠慮なく声をかけてくれ」

スタスタと横切る彼の横顔は男の俺から見ても綺麗だ。
影を纏うその表情に、狂喜にも似た感情が湧く。
そうだよ。
君は幸福でいてはならないんだ。
自分自身の背負う運命に絶望して、孤独で、孤高でいて貰わなくては。

大きすぎる力は人を孤独にする。

何の本で読んだかな。
誰かがそんな事を言ってた。
まぁ、今はそんな事はどうでもいいけど。
君も例に漏れずそうあるべきだ。
砂漠を彷徨う旅人のように常に渇いていればいい。
満たされずにもがいてあがいて、最後には絶望すればいい。


「君は美しい少年だな」

指で作った額の中に、その姿を収める。
君は俺の世界で1番大切な人を奪った。
君が産まれたせいで、俺は彼女を失った。
君が産まれたせいで俺は世界を失った。

俺が世界でただ1つ望んだものは、君が隠したんだ。


「―君が美しい少年でホントによかった」

それを取り戻すまで、君は幸せになるなんて、許さないよ。

―シンドウ・スガタ。

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