額縁の向こう側の世界
嘘の世界で生きていた。
それは、彼女が幸せになる為の嘘だった。
僕の罪を隠す為の、嘘だった。
僕が作った、彼女の為の、幸せの箱庭だった。
「ナマエちゃん」
「え…ミヤビさん!?」
廊下で声を掛けられ、振り返ると最近ではもうすっかり見慣れた姿だった。
「やあ」
姿は見慣れたもの、だけど、格好は見慣れない、というか…。
「え、制服…え??学生?」
ネクタイの色は3年生のものだ。
年上なのは間違いないが、こんなに歳が近いとは思わなかった。
てっきり大学生くらいかと思ってた…。
こんなに大人っぽい高校生いるんだ。
「まぁね。部活?」
「部活というか、趣味というか」
カメラに視線を落とせば、ミヤビさんは察してくれてあぁ、と零す。
「写真か。俺はあまりカメラとかって触った事ないけど、面白い?」
「面白いっていうか、綺麗な景色をそのまま切り取って残しておきたいんです」
「その気持ちはわかるな。元絵描きとしてね」
「ホントに高校生ですか?ミヤビさん何か達観してる」
「どうかな?」
「え、嘘なんですか?コスプレ?」
「ははっ。その方が面白いからそういう事にしておくよ」
コスプレって言っても違和感ないなぁ。
だってこんなに大人っぽいんだし。
ていうか、こんな飄々としてつかみどころのない生徒がいたら先生苦労するだろうな…。
「今日はもう帰るんですか?」
「いや。美術室に寄ろうと思って。もしかしたら、また描きたくなるかもしれないんだ」
「ホントですか?何か描きたいもの、見つかったんですか?」
随分と長い事絵を描いてないと言っていた彼の表情はとても暗くて、だから、また絵を描く気になってくれたのなら、それは喜ばしい事だ。
それに、純粋に興味がある。
この人が、どんな絵を描くのか。
どんな景色をこの不思議な人の目はとらえているのか。
「そういう訳じゃないんだけどね。この前、ある少年と話をしたんだ」
「それで、彼に助言をしたつもりが、俺自身が色々考えさせられてね。
結果、こういう事になってるって訳。
だから、とりあえずキャンバスと睨めっこしてたらインスピレーション湧くかなって思って」
「これからは多分しょっちゅう美術室にいると思うから、ナマエちゃん、暇な時にでも顔を出してくれると嬉しいな」
「でも横に人がいると邪魔になりませんか?」
「インスピレーションなんてきっとすぐには沸かないよ。
それに1人で鬱々としてるよりも、話し相手がいてくれた方が楽しいからね」
君が来てくれるなら大歓迎だよ、と笑うミヤビさんは何だか楽しそうだ。
元々、楽しそうな人だけど、たまに見せる影を帯びた表情はとても深いものなんだろうと思う。
簡単に手を触れていいものじゃないんだと思う。
どんな絵を描くんだろう…。
さぁ、暇つぶしにワルツでも踊ろうか。お嬢さん。
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