夜の船旅
"王様、僕はただ貴方が持っているという銀河の船が欲しいだけなんです!
それに乗って、眩い銀河の世界に旅立ちたいのです!"
「―今日は俺に会いに来てくれたのかな?」
初めて会った時と同じように、ベンチから夕陽を眺める彼は、同じように薄い笑みを浮かべている。
自分が何を思って再度この場所に足を向けたのか、答えは何となくわかっている。
「どんな絵を描いているか気になってね」
「それは申し訳ない。まだ何も描きはじめていないんだ」
彼女に、少し似ている気がする。
外見が、というより雰囲気が。
僕とは、人とは違った景色に輝く眼差しを向ける彼等が。
「美術部員?」
「実は学校にはほとんどいってない」
ふふっ、と薄く笑って言う彼は内容の割にそう深刻そうな雰囲気はない。
実際本人にとって学校というものはそう大したものじゃないんだろう。
そういう部分は僕と似ている気がする。
世界の中で自分だけの領域を小さく囲って、自分と誰かと、関心のないその他に区別して。
広がりつつある世界に、見え始めた景色に、惹かれているのも確かだけど、今まで築いてきた世界が崩れつつある事実に困惑しているのもまた事実だ。
「君が興味を持ったのは多分俺の描く絵じゃなく、絵を描く俺の方だな」
「この前会った時に思った。
君はどこか俺に似ている」
自分と他人が似ていると躊躇いなく言えるその自信は何処から来るのか。
何をもって簡単に自分の存在と他人の存在をそんなにも近くに重ね合わせられるのか。
その感覚が、僕には理解できそうにない。
「君は自分の進路について迷っている。
そしてそれはおそらく常識から外れたような選択肢だ」
「なぜそんな風に思うんです?」
まるで僕の内面を見透かしてるみたいに、淡々と、当然の事実を述べるみたいに言う。
それなのに不思議と嫌悪感はなくて、それもこの男の持つ何かしらの魅力なのだろう。
「俺達は似てるからさ」
この男は不思議と彼女に似ている気がしたけれど、思ったほどは似てないかもしれない。
彼女は、ナマエは、時々驚くほど近くにいるけれど、時々、手が届かないくらい遠くにいる。
何処か遠くの世界に焦がれているような、寂しそうな、熱い視線を向けている。
彼女の視線の先に見える世界は、あるいは彼に見えている世界と同じものなのだろうか。
だとしたら彼が描く絵は、彼等にしか見えない世界の末端を垣間見せるものになるかもしれない。
空はもう藍色だ。
彼女の瞳の色と、よく似ている。
あぁ。夜の海にも、似ている。
そろり、と空に手を伸ばす。
人とは違う世界に焦がれるのは寂しいからか、焦がれるから、寂しいのか。
答えの出ない問いだ。
僕にとっても、彼女にとっても。
時々思う。
この世界を失いたくない。
でも、もしこの世界がなくなれば、もっと、もっと、僕が幸せになれる場所があるんじゃないか、って、そんな子供じみた幻想を抱く。
サムは少女を殺した。
眩い銀河の世界に飛び立つ為に少女の赤い血を船のエンジンに注いだ。
結局、サムが恋したのは少女ではなく、銀河の世界への憧れだった。
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