百年の眠りから覚めて
君に恋をして、僕は魔法をかけられた。
百年の眠りにつく、寂しい魔法を。
ザーっと朝から降り続く雨は一向に止む気配はない。
空も海もどんよりとした鈍色で、いつもの鮮やかな色はすっかり失われている。
窓から雨の降る景色を見てると気持ちまでどんよりとしてくる。
「―雨は嫌いかい?」
南十字学園の美術室で真っ白なキャンバスを眺めながら時間を過ごす事はもう殆ど日常になりつつある。
なまえによく似た少女―ナマエちゃんと一緒に。
写真を撮るのが好きだという彼女は、普段は放課後は被写体探しをしてたり、他の部活動に頼まれて写真を撮ったりしているらしいが、時折ふらりと此処を訪れる。
俺も彼女も何をする訳でもなく、俺は画集を見たり、真っ白なキャンバスをぼんやりと眺めていたりして、彼女はぼーっと外を見てたり、スケッチブックに落書きしてたり、宿題を片づけてたり。
そんな過去の日々によく似た日々は苦しくて、でも、麻薬の様に俺を惑わせる。
綺羅星の計画はあの忌々しい銀河美少年の介入もあって今のところ停滞している。
動かせるサイバディも日に日に少なくなっていく一方だ。
今は計画を急ぐよりも、アインゴッドの復元を待つ方が賢明だろう。
それまではこのぬるま湯のような日々に浸っているのも悪くない。
「雨の、音が好きなんです。湿気は嫌ですけど」
思考が、止まる。
『雨は、音が好き。でも、じめじめしてるのは嫌い』
なまえと、同じ事を言うんだな…。
昔、雨が好きなのかと聞いたら、なまえはそう言った。
君も、そう言った。
なまえと同じ顔で、同じ声で、同じ笑い方で。
「?ミヤビさん?」
「…いや…何でもない」
あの日に戻ったのかと思った。
なまえが戻ってきたのかと思った。
心臓がどくどくと激しく脈打って、まだ治まらない。
確かに初対面から他人の空似とは思えないくらい似ていると思っていた。
話せば話す程内面も似てると思った。
それでも彼女は彼女で、決してなまえではない。
そう思っていた。
「…」
ただの、偶然か…?
彼女の経歴に不自然な点はなかった。
両親もこの島の出身者だが、シルシ持ちの血筋には関係のない一般人。
この島に来るまでの経歴も特にこれといったものはなかった。
期待と不安が入り混じって、変な汗が背中を伝う。
この16年、こんな事は1度もなかった。
彼女の存在をこんなにも身近に感じさせる存在(もの)は1つもなかった。
それが16年経って、唐突に現れた。
偶然か。それとも、必然か。
「…雨の絵は、好き?」
「雨、ですか?」
顎に手を当てて考える仕草をするナマエちゃんに視線を向ける。
「描くんですか?」
「君が描いて欲しいなら、描いてみようかな」
どうかな、と再度問えば、彼女は少し眉を下げて笑った。
「雨の音は好きだけど、何だか寂しいから。だから、いいです」
「…そうか…それもそうだね」
『いいや。雨は何だか寂しくなるから』
あの日の雨上がりの虹を、俺は今も覚えてる。
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