とある魔女の物語

僕には視える。
君の本当の姿が。
君は魔法にかけられたお姫様だ。



「よ」


「あ。カシワギ君。久しぶり」


カシワギ君はあ、そういえば!と何か思い出したみたいに声をあげた。
何だろう、と思ってたら、なぁなぁ、と急に真剣な顔をしていた。


「この間2組は豪華客船で親睦会だったんだろ?良いよなぁ。ワタナベさんの豪華客船!」


なるほど。
どうやら彼も私やその他大勢と同類で、あの豪華客船に憧れを抱いている1人だった訳だ。
当然と言えば当然だけど。
そりゃ、身近にあんなもんがあって気にならないって人の方がむしろ変だ。


「どんなだった?やっぱ中もすっげー豪華?」


「豪華豪華!手摺とか椅子とかあるもの全部いちいち豪華すぎて逆に緊張した!」


やっぱり!?と頭を抱える仕草が面白くて、思わず笑みが零れる。
逆の立場ならきっと私が同じ事をしてたに違いない。


「人生で1度は乗ってみたいよなー」


「世界一周とか?」


「それも良い!」


何処に行きたいかから始まり、どんな設備が欲しいかに至るまで2人で妄想を繰り広げる。
馬鹿らしいと思いつつも楽しいし、何より夢がある。
ちなみにカシワギ君はプールと(お酒飲めないのに)バーは外せないんだとか。
曰く、バーは雰囲気だけで良いらしい。
どんな雰囲気だ。


「何かカシワギ君一気に焼けたね」


真っ黒とまではいかなくても、前に見た時よりもややこんがりとしている。


「そりゃこんだけ暑いし。それに俺、水泳部だから」


「え、そうなの?料理研究部じゃなくて?」


「掛け持ち」


なるほど、と相づちを打つ。
つまり彼は実はなかなか忙しい人なのだ。


「水泳かぁ。小さい頃からやってるの?」


「ん。小1から」


「だから色素薄いんだ」


カシワギ君の茶色の髪を指さす。
プールかぁ。懐かしいな。
あの塩素の匂いが私は結構好きだ。
太陽が波に反射してプールの底で光がゆらゆら揺れる光景も好きだ。


「お菓子ー!」


「うわ!ミズノ…!びっくりした。今日は何も持ってないよ」


「あ!ナマエちゃんもいるー!」


「ミズノちゃん。これから部活?」


「うん!ボク、今度の舞台タクト君とキスするんだ!」


「キ…っ!?」


「「キスすんの…!?」」


綺麗にハモってからカシワギ君と顔を見合わせて何でか気恥ずかしくなって2人して目を逸らす。
いや…下心はないけど、やっぱそういう話題には敏感というか、興味がある。
だから余計に2人して何か気まずいのかもしれない…。


「あー…」


何か一気に体温上がった…。
ミズノちゃん恥ずかしげもなく言うから何だかこっちが逆に恥ずかしくなる。
ちらりとカシワギ君を見たら、やっぱり頬を軽く赤くしたカシワギ君と目が合う。
何だもう2人して…。
ミズノちゃんはこっちの気も知らずタタタッと走り去って行ってしまった。
あ、嵐だ…。


「あんな浮かれて。ミズノ、相手役好きなのかね?」


「好きなんだろうね…あれは」


確実に。
ツナシ君モテるなぁ…。


「「恋だねー…」」



魔女は魔法の"目"を持っていた。
だから世界中の全てが見えていたし、人には見えないものも見えていた。
魔女は喜んだ。
自分だけが本当の世界を目の当たりにできる本当の人間なんだと。

でもその力のせいでいつしか魔女は孤独になった。

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