遠い世界に飛び立つ前に

「―やぁ」

学校からの帰り道で声をかけてきた人物に、なまえは少し驚いた顔をした。

「学校で君と会うなんて、なかなか珍しいシチュエーション」

なまえはくすくす、と悪戯っぽく笑う。

「たまには、こんなのも悪くないと思ってね。それで?学校で何かあった?」

「え…?」

ヘッドはなまえの頬を軽く突く。

「何だか暗い顔してるよ」

なまえは少し笑って溜息をつく。

「君には何でもお見通しだね…」

「まぁ、大した事じゃないよ。演劇部に、また入らないかって誘われたんだ」

「へぇ。良いじゃないか。やったらいいのに。俺も見てみたいな。なまえが演技してるとこ」

楽しそうに笑うヘッドに、なまえは呆れた様な顔をした。

「君は私の親か…演劇はやらないよ。今はやる事も沢山あるし。それに…」

「…あんまり、一緒に居たくない」

「そう…なら仕方ないか」

ヘッドは誰がとは聞かなかった。
会話が途切れ、なまえは浜辺の方に目を向ける。
静かな波の音と、遠くの車やバスの音が耳に入る。


「…1人で遠くに行っちゃダメだよ」

「え…」

軽く左手を取られ、ヘッドの方を見る。
ヘッドはいつもの軽薄そうな笑みではなく、至極真面目な顔でなまえを見ていた。

「…俺を置いて、勝手に1人で遠い世界に行ったらダメだよ」

なまえは目を見開いたが、繋がれた手にほんの少し力を込める。

「はーい。気をつけます」

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