花の蜜

「ガラス越し、有りな人?」


休み時間―何処からともなく現れた少女は、目ぼしい男子生徒に声をかける。

「勿論!有りな人です!」

可憐な少女に男子生徒は頬を赤らめ、即答する。

「珍しい…女の子からだ」

なまえは思わず呟く。

「女の子からなんて…はしたない」

ガラス越しにキスを交わす2人に、カナコは不愉快そうに顔を歪める。

「誰かな、あの子。めちゃめちゃ積極的」

同じくその光景を見ていたワコやスガタ、タクトもなまえの言葉に頷く。

「…」

少女を目で追うなまえにスガタが声をかける。

「気になる?あの子の事。ずっと目が追ってるよ」

なまえははっとして少女から視線を戻す。

「へ?あ…ううん。可愛いなぁと思って。ね?タクト君!」

「へ!?僕?う、うん…確かに可愛いと思うよ」

「ふーん…」

「…」

―何処かで見た事があるような顔だったなぁ…あの子…誰だろ。


「おぉっ…」

中庭を見たなまえは思わず顔を引き攣らせた。

「ん?」

「どうした?」

「どうしたの?」

「あれ…」

ワコ達もなまえの指さす先を見る。

「あれが噂の謎の美少女かぁ」

「ぅわぁ!?」

「部長!?」

「わあぁっ…副部長…っ!?」

「ははっ…大丈夫だよ」

後ろから顔を出したサリナはお構いなしに中庭を見下ろす。
中庭は例の美少女と彼女を取り巻く大勢の男子生徒達で、異様な空間を作り出していた。

「モテるねぇ」

校舎の窓から見ていたサリナが言う。

「可愛いし、花はあるけど…何か、もて過ぎ?」

「確かに」

とりあえず副部長から距離を取った所で落ち着いたなまえも頷く。

「この匂いだな」

「そう。匂いだ」

「「匂い?」」

タクトとスガタの言葉に、なまえとワコは首を傾げる。

「やばいよね。この匂い」

「だから何の匂い??」

「このままだと、あの子の逆ハーレム学園になっちゃうね」

サリナは苦笑気味に言う。

「逆ハーレム学園…」

顔に出易いのか、ワコが頭の中で何を考えているのか手に取る様にわかる。

「ワコ…多分そう言うのじゃないと思う…」

「いやいやいや…そこまではいかないだろ」

「え…」―何でわかるの…。


「―ほら。タクト君とスガタ君を見てるよ?」

「「え?」」

再び少女の方に目を向けると、2人に向かって可愛らしくウィンクをした。

「ウィ…ウィンク…」

「日常生活で初めて見た…」

「ある意味凄い…」

「やるわね…まさかこの後は伝説の…」

サリナの予測通り(?)、少女はちゅっと投げキスを振りまく。

「でたぁぁ!」

「投げキッス…実在したんだ…」

「(もう最強…)」

そんな中1人の少年が少女に見向きもせず、背を向けて去って行く。

「あれ?彼…どっかで見た事ある…」
―誰だっけ…?

「ほら、彼。アオキ・ツバサ君。演劇部の裏方とか手伝ってくれたりした」

スガタが言う。

「あぁ!そういえば!」

なまえは思い出した!と手を叩いた。

「おやおや。あの女の子、凄い人気ですね」

後ろから声をかけてきたのは演劇部の顧問でもある学園長だった。

「演劇部にスカウトします?」

サリナは冗談交じりに言う。
その瞬間、地面が揺れる。

「また地震だ…」

「大きいな…」

「ぅわ…っ」

「危ないよ。僕に掴まって…!」

タクトは揺れでよろめいたなまえに声をかけ、なまえは咄嗟にタクトの手を取る。

「ふぅ…どうやら、治まったみたいですね」

「大丈夫だった?」

「お陰様で。ありがと、タクト君。助かったよ」

「気多島が動いているのか…?」

「うん…」

スガタの問いにワコが頷く。

「…」

「あれ?あの子、いなくなってる」

何時の間にか中庭から少女の姿は消えていた。

「もしかしたら…」


「見つけたよ。ほら」

サリナが指さす写真には例の美少女にそっくりな少女が写っていた。

「確かに似てる…」

「本人か」

「うちの学園の卒業アルバムだ。十数年前の物だけどね」

「(数十年前…やはりあれは第1フェーズの力か…?)」

「その子の名前はオカモト・ミドリ。あの保健の先生だよ」

オカモト・ミドリ―高等部のほわほわとした雰囲気の女医だ。

「(だとしたら、彼女がプロフェッサー・グリーン)」

「でも、十数年前でしょ?」

タクトが言う。

「第1フェーズの力で若返る事が出来るスタードライバーがいる」

「やっぱり綺羅星か…」

タクトはため息をつく。

「けどそれは、周辺に時空間に歪みが生じるほどの大きな力らしい。その力を乱用するから、多分、最近地震が起こるんだ」

スガタが言う。

「気多の巫女の封印が解かれたせいで、気多島の火山は不安定になっている。最悪、噴火するかもしれない」

「気多島が噴火してこの島が被害にあえば、むこうも困る筈なのに…」

「その力と地震の関係を、奴等は知らないのかもしれない」

スガタが言う。

「だとしたらやばいね。あの子、第1フェーズを乱用してる。かなりの男子生徒に呼び出しの手紙とか出してるみたい。これはスガタ君の机に入ってた手紙。確かにやばい匂いがする」

「やっぱスガタも貰ってたんだ」

「大勢の内の1人だよ」

「呼び出して何してるのかな?」

「そりゃあもう…やりたい放題!」

「「やりたい放題…」」

「じゃあ僕が誘いに応じたふりをして様子を探るよ」

ポケットから同じ封筒を取り出したタクトが名乗りを上げる。

「やっぱり貰ってたんだぁ」

「…どうするつもりだったの?」

「「こっそりやられたい放題」」

向かい合って座っていたスガタとなまえがしれっと言う。

「とか思ってたわけじゃなくて!ほらあ、僕なりに兎に角調べてみようかと思…って…え?」

タクトを待っていたのは冷たい視線だった。

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