君の歌

「歌が聞こえる…」

タクトが呟く。

「え?」

「ほら。この歌…」

「私、この歌知ってる…」

そう言うと、ワコは声のする方へ足を進める。

「やっぱり。なまえ」

なまえは振り返ると、目を丸くした。

「ワコ?それにタクト君も。どうしたの?」

「それはこっちの台詞。なまえこそ何してるの?今日学校サボったでしょ」

「えーっと…散歩?」

「もう…」

ワコは呆れた様に溜息をつく。

「そうだ。これ」

鞄からラッピングされた青い袋を取り出し、なまえに渡す。

「香水。なまえが好きそうな香りの物があったから」

「ワコが選んでくれたの?ありがとう。大切にするね」

ワコは嬉しそうに頷く。

「うん」

「ワコ、ありがとう。タクト君も。あしたはちゃんと学校行くから、今日の事はヒトミティーチャーには内緒でお願いね」

「しょうがないなぁ。じゃあ、パフェで手を打とう」

「この食いしん坊め」

「えへへ」

「プレゼントも貰っちゃったし、仕方ない。1杯だけだからね」

「わかってるよ!」

「なまえ!」

「ん…?」

「また明日ね!明日は休んじゃだめだよー!」

「りょーかい」


「さっき、なまえちゃんのプレゼント買いに行ってたんだ?」

「うん」

「良かったね。喜んでくれて」

ワコの足が止まる。

「喜んで、くれたのかな…?」

「ワコ?」

「なまえは気を使われるのが好きじゃないから、出来るだけ普通に接してるつもりだけど、スガタ君以上に、なまえは誕生日を嫌ってるから…」

ワコは少し顔を俯かせる。

「なまえちゃんが?」
―そこまで嫌ってるようには見えなかったけど…。

「さっき話したでしょ?シンドウ家のしきたりで、なまえは分家に引き取られたって…」

「うん…」

「あれはなまえをスガタ君から、王のサイバディから遠ざける為なの…」

「え…」

「…昔ね、いたんだ。“スガタ”と双子で産まれて、シルシを持ってた人が」

「シルシを…?」

「シンドウの家系には王のサイバディと、もう1つ、審判者のサイバディが受け継がれているの…」


「そしてある日、その人はアプリボワゼした…」

「何が、あったの…?」

「…力を制御できなくて、暴走して、沢山の人を死なせてしまったの」

ワコはぎゅっと目を瞑る。

「審判者のサイバディは王のサイバディと同じ位強大な力を持ってる。だから“もう1つの玉座”とも言われてるの…」

「けど、審判者のサイバディも王のサイバディと同じでアプリボワゼしてはいけない…運よくアプリポワゼできても、第1フェーズの力だけでも制御が難しくて、これまでシルシを持っていたドライバーのほとんどがその力を使いこなせなくて、廃人同然になったって…」

「だから、審判者のサイバディのドライバーは幽閉されて、一生、外に出る事は許されない…」

「でも、なまえちゃんはシルシは持ってないんだよね?だったら関係ないんじゃ…」

「持ってないよ。少なくとも“今は”…」

「今は?既に他の誰かがシルシを持ってるって事?」

ワコは首を横に振る。

「審判者のサイバディにはシルシが無いの…正確には、見えない」

「だから産まれた時点じゃわからないし、必ずしも“スガタ”と一緒に産まれてくるわけじゃない」

「王のサイバディのドライバーもいつも必ず双子で産まれてくるわけじゃないし、双子だったとしても、その子が必ずしも審判者のサイバディを受け継いでいるとは限らない」

「うー…ん…何か複雑だね」

段々話についていけないタクトにワコは少し苦笑を零す。

「ただ、そういうケースが多いから、“シンドウ・スガタ”と双子で産まれた子は不吉だって言われて、すぐに引き離される…」

「昔は、産まれてすぐ殺してた時代もあったって聞いた…今は分家に実子として引き取られるのがならわしになってるけど…」

「5年前その話を聞いて、なまえは、自分はこの世界にいてはいけない存在なんだと思ってるみたい…」

「だから、なまえちゃんは、誰よりも自分の誕生日が嫌いになったの…?」

ワコは小さく頷く。

「あの2人はね、お互いの存在を多分世界で1番大切に想ってるんだよ。本当の姉弟ってわかる前から…けど、だからかな…あの日から、お互いに自分の存在が相手を苦しめてると思って…いつも擦れ違ってる…そんな2人を見てるのが、苦しい…」

「ワコは、2人に笑って欲しいんだ?」

ワコはばっと顔をあげる。

「うん…笑って欲しい…スガタ君もなまえも、私にとって大切な人だから…いつも、笑っていて欲しい…」
―あの人達が私にくれた笑顔を、私もあの2人にあげたい…。

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