意地悪な笑み

「はぁ…はぁ…っ」

しばらくして足を止めたなまえは膝に手を付いて肩を上下させる。

「―おーおー。朝から1人でマラソンかぁ?」

声の方を振りかえり、僅かに顔を歪める。

「…違います」

声の主は青いネクタイの長髪の青年―ボウ・ツキヒコだった。
その顔には意地悪な笑みが浮かんでいる。

「ツキ先輩」

「あ?何だよ、マラソン女」

「ジュース奢って下さい。喉かわきました」

「自分で買え」

「ケチ…」

なまえはふくれっ面でツキヒコを見る。

「てやっ」

地面を蹴ってジャンプすると、ツキヒコの手からペットボトルを奪い取る。

「あっ…てめ…っ!」

「貰いっ」

ごくごく…と喉に流し込む。

「本当に女か、お前」

奪い返すのは諦めたのか、ツキヒコは呆れ顔でなまえを見ている。

「喉渇いてる時は小さな事なんて気にしてられませんよ。ふぅ…生き返った」

「じゃあもう1回死んで来い。それから俺のジュース返せ」

「死にはしませんけどジュースは返します」

ツキヒコは文句を言いながらも返されたペットボトルを受け取る。

「―で?何でお前は朝から暑苦しく1人マラソンしてたんだよ。
いつもシンドウ・スガタと登校してるんだろ。
奴はどうした?」

「…来る途中で喧嘩したんです」

「へぇ。何だ、ばれたか?」

ツキヒコはペットボトルから口を離して尋ねる。

「…そんなヘマはしません」

ツキヒコは予想してたのか、だろうな、と言った。

「お前等の喧嘩に大して興味はないが、“支障”は出すなよ」

「…表と裏は使い分けてるつもりよ。余計な心配はいらないわ」

「なら良い」

ツキヒコはにやりと口端を上げと、なまえの頭に軽く手を乗せ、3年の教室へと去って行った。

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