青空にかっ飛ばせ
「よーし!上げてこうぜ!」
女生徒の黄色い歓声が飛ぶ。
晴れ渡る快晴の元、南十字学園では球技大会が開かれていた。
そしてこのグラウンドでは1年1組vs2組の野球の試合が行われていた。
「ストライーク!」
1組のピッチャーのタクトは絶好調で、次々にストライクを取っていく。
「おっ。飛ばすねー」
補欠の為ベンチに残っていたなまえは思わず呟く。
マリノの打った球は大きく飛び、場外ホームランになった。
「おぉ…」
ピッチャーのタクトも思わず声を漏らす。
そしてマリノがホームに帰ると、4番のタケオがバッターボックスに入る。
「あいつが4番か…手強いなぁ」
「―お前は補欠か?」
なまえはちらっと視線だけ2人に向ける。
「…悪いですか。くじ外れたんです」
むくれるなまえに2人は馬鹿にしたような笑みを浮かべる。
「だっせ」
「あーあ。くじ運ねぇな」
「ぐっ…むかつく」
なまえは耐える様に拳を作る。
おおっ、という声にグラウンドを見ると、タケオの打った球は大きく飛ぶ。
「お」
「へぇ。タケオの奴やるな」
ギンタが言う。
「あーっ!」
だがスガタがキャッチしアウトになる。
「スガタ、ナイス!」
なまえも思わずガッツポーズをする。
「そういや、あいつ、うちの代表サマにマジらしいぜ?」
ギンタの言葉になまえはへぇ、と守備につくマリノを見る。
彼女がマンティコールであろう事は既に##NAME1##を含めたバニシングエージのメンバーは気付いていた。
「でも何で優等生で人気者の彼女がうちに入ったんですかねぇ」
「さぁ。興味無いな」
「私もです」
ギンタはじゃあ聞くなよ、と呆れた様に言う。
「そうそう。タケオのクラスに負けたらお前罰ゲームな」
「は?何でですか」
「その方が面白そうだから」
「ヤです。横暴です」
「拒否権は無いぜ」
「ギンタ先輩助けて下さい〜!ツキ先輩が横暴です」
なまえはギンタを見る。
「うっ…」
―出た…こいつの子犬みたいな顔…苦手なんだよ…。
「何で目逸らすんですかー!」
「行くぞ、ギンタ。次の試合始まるぞ。じゃーな。精々頑張って応援しろよ」
「あー!ちょっ…!」
なまえを無視して2人はテニスコートへと戻って行く。
1回裏―1組イチゴファイターズの攻撃でピッチャーはタケオ。
バッターはタクトだ。
「行けー!タクト君!」
「かっ飛ばせー!」
「タクト君、素敵ぃー!」
「ぶちかませ!」
「もっと大胆に!」
「「「え?」」」
なまえ達は横を見る。
「キャップから溢れる髪にボリュームが出る感じで!」
カナコの髪をシモーヌがカットし、タカシは指の手入れをしている。
「今やんなくても…」
「ミセス・ワタナベはどんな時でもマイペースだねぇ」
なまえは呑気に言う。
「この4人が一緒にいるの、何か久しぶりだね」
並んで座っていると、ワコがふと呟く。
「お。そういえばそうだ。昔はよく一緒に遊んでたもんねー」
なまえも頷く。
球を打ったタクトはファーストに突進するが、勢い余ってマリノを巻き込んで2人共地面に倒れ込む。
「派手に突っ込んだね…」
「大丈夫かな…」
砂埃が治まって見えた光景にそれを見ていた誰もが目を見開いた。
マリノの上にのしかかる様に倒れたタクトは思いっきりマリノの胸元に顔を埋めていた。
「あら」
なまえは思わず声を漏らす。
「やだ、タクト君…っ」
「「おっ」」
ルリとなまえはにやにやとワコを見る。
「こらタクト!羨ましいぞ!」
思わぬハプニングに、スガタはふふっ、と小さく笑う。
慌てて立ち上がったタクトはマリノに手を差し出すが、マリノはその手を取らずにスッと立ち上がる。
なまえはタケオに目を向け、あからさまに不機嫌そうな顔のタケオに思わず苦笑を零す。
「可哀想に…」
―顔に出すぎだって、君…。
「へ?」
「何が?マリノちゃん?」
「あぁ、ううん。こっちの話」
タケオが球を投げ、タクトはベースに戻る。
球を取ったマリノはグローブをトン…と軽くタクトの胸に当てる。
その頬は何処か赤くなっている様に見える。
「あれは落ちちゃったかな〜」
「落ちちゃったんじゃない〜?タクト君だし」
「何が落ちたの?」
うんうん、と頷くなまえとルリにワコが尋ねる。
再びリードを取るタクトにタケオの牽制球が飛ぶ。
「まさに牽制球だな」
スガタは小さく苦笑を零しながら言う。
シモーヌは三振でアウトになり、カナコがバッターボックスに入る。
「がんばれよ。4番バッター」
スガタが立ち上がったケイトにバットを渡す。
カナコは大きく打ちあげるが、フライで取られる。
ケイトは小さく頷くと、バットを受け取る。
なまえはちらっとその光景を見て僅かに目を細めた。
ケイトは三振でアウトになった。
イチゴスターズ対ニンジンファイターズの試合は一進一退の攻防が続く。
「はぁ…」
―マジで負けたらどうしよ…ツキ先輩の考える罰ゲームって絶対嫌なのだ…。
5回表を終えてなまえは頭を抱えていた。
「―代ってあげましょうか?」
「へ?良いの?」
なまえはばっと顔を上げると声をかけてきたタカシを凝視する。
「折角なんだから出ないと勿体無いでしょ?僕はそこまで球技大会に興味ありませんし、それに」
「(マナセさん、罰ゲームかかってるんでしょ?)」
タカシはなまえの耳元に口を寄せると、こそっと囁く。
「聞いてたんかい…」
「偶然聞こえたんです」
タカシは悪びれた様子も無く、にこっと笑みを浮かべる。
「けど、聞いてたのは罰ゲームのくだりだけですよ」
「(嘘くせ…)」
「疑ってます?本当ですよ」
「まぁ、応援よりは良いか。ありがと、ダイ君」
「どういたしまして。後、タカシでいいですよ」
「ありがと。タカシ君」
なまえはヘルメットを被り、バットを取る。
「選手交代お願いしまーす!」
「っしゃあぁ!こいやァ!」
ケイトの次にバッターボックスに入ったなまえは地面にトントン、とついてバットを構える。
「三振させてやるよ」
「やってみろ」
2人の間をバチバチッと火花が散る。
「な…何か、あの2人燃えてない…?」
「(ツキ先輩の罰ゲームは絶対嫌!そしてこいつに負けるのも―)」
「嫌だ!」
カキーンと音を響かせてなまえの打った球は大きく飛び、フェンスの向こう側に落ちる。
「場外ホームラン…」
「ッしゃぁぁ!」
なまえはガッツポーズでベースを回りホームに帰る。
「タカシ君〜!」
「ぅわっ!?」
なまえはタカシに抱きついた。
「なまえっ!?」
「青春だね〜」
「そーいう関係だったの!?」
「君のお陰だよ!代ってくれてありがとね!」
満面の笑みを浮かべてぶんぶんと手を振るなまえに、タカシは少し戸惑ったように頷く。
「う…うん…」
―そんなに嫌だったんだ…罰ゲーム…。
そして試合は終盤を迎え、9回裏―1点差をつけられてイチゴスターズの攻撃。
三塁には同点ランナー、マツヤマ・ヒロシ―二塁には逆転ランナー、シンドウ・スガタを進め、バッターはツナシ・タクト。
「タクト君打てー!」
タクトはバットを振るい、タケオの球を打ち飛ばすが2球ともファールになる。
タケオは不敵な笑みを浮かべ球を投げる。
しかし、球はバットを掠める事なく乾いた音を立ててミットに収まる。
その違和感に気付いたなまえを含めたスガタやマリノ達はピッチャーのタケオに目を向ける。
「(今のは…)…って…まさか…」
「負けましたね」
タカシは落ち込んだ様子も無くなまえに言う。
「「「ありがとうございましたー!」」」
整列し礼を取ると、解散する。
「はぁ…負けちゃった」
―ツキ先輩の嬉しそうな顔が目に浮かぶ…。
なまえは小さく溜息をつきながら、恨めしそうにタケオを見る。
「それもこれもあいつのせいだ…」
―タケオの奴め…覚えてろよ。
密かに復讐を誓い、なまえは踵を返す。
前へ|次へ
戻る