忘れた頃に
「ねぇ、タクト君―」
その一言にクラス中(教師含む)がピシッと固まる。
「私達、まだ1度もしてないわね。私、硝子越しのキスを入学してから今日までに73人の男の子としちゃったけど、どうしてタクト君は1度も声をかけてくれないのかしら?まだこのお預けプレイは続くの?」
「(そういえばさっきもしてたなぁ…)」
なまえはぼんやりとそう思った。
「タクト君って細身だけど、意外と肩幅広いわよね。考えてみれば私って、毎日毎日退屈な授業の間、貴方の背中を見て過ごしているのよね―」
ヒトミが握っていたチョークがボキッと折れる音がする。
そんな事は気にせず、カナコは左手の薬指のリングを眺める。
「ねぇ、タクト君、私は去年教会で式を挙げたんだけど、その時神父様に言われたの。人は心の中で欲望を抱いただけでも罪なんですって…」
「じゃあいつもタクト君の背中を見ながら色々妄想しちゃってる私は、もう罪人なのかしら?」
「〜っ…」
「存在自体が公然わいせつ罪」
ケイトが相変わらずの厳しい声音で言う。
放課後、鞄を手に立ち上がると同時に、コンコンと窓を叩く音がし、カナコの後ろの方の窓に目を向けると、ツキヒコが窓に凭れていた。
「よぉ―」
「こんなトコで何してるんですか、ツキ先輩。此処3年の教室じゃないですよ?」
なまえはガラス戸を開けて言う。
「この間の罰ゲームだ」
そう言った瞬間、なまえの顔がピシッと固まる。
「お前、忘れてただろ」
「何で覚えてるんですか…」
ツキヒコは笑みを深めるだけだった。
「はぁ…わかりました。何ですか、罰ゲーム。エグイ事以外なら…」
言葉を遮る様に腕を引かれ、身体が傾いたと思った瞬間、頬に柔らかい物が触れる。
「…ん?」
「あら」
「お…」
「「「はあぁァァ!?」」」
何時の間にかカナコやルリだけでなく、クラス中が注目していた。
中には既に涙目になっている男子も何人かいる。
はっとしたなまえは頬を押さえる。
「な…何…今の何…」
「罰ゲーム。これで終わらせといてやるよ。じゃーな」
そう言うとツキヒコは何食わぬ顔でひらひらと手を振って去って行く。
「…え…」
―今、ホッペにキス…された??
「彼、この間一緒に登校なさってた方よね?あの方はやはりマナセさんの恋人なのかしら?」
「違うよ…」
なまえは苦笑を零してカナコに言う。
「スガタ君やタクト君にはちょっと負けるけど、なかなかイケメンじゃーん!ちょっと強引な感じがまたグッド!どこで見つけたのかなぁ?このこの」
「だから違うって…」
にやにや顔で捲し立てるルリに顔をひきつらせた。
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