大きくて、小さい

「…図書室…寄って行こうかな」


なまえはふと目に入った図書室に立ち寄る。
放課後のせいか、利用してる生徒は少ない。
興味をひかれたタイトルを抜き取ると、旧校舎に面した窓辺に腰掛ける。
専門書の棚ばかりあるせいか、そこが特に人気が少ない。
手摺に高さがあるせいで床に付いていない足がぶらぶらと揺れている。

「…」

『僕達人間はホントは皆魔法使いなんだよ―』

「魔法使い、か…」
―なら私は、どんな魔法が使えたのかな…。

「―間抜け面で何してんだ?」

「…考え事です。後、間抜け面は余計です」

ツキヒコはなまえの隣りに腰掛ける。
なまえは本を閉じる。

「ツキ先輩知ってました?人間って魔法使いなんだそうですよ」

唐突にそう切り出したなまえにツキヒコは怪訝そうな顔をする。

「はぁ…?何だ、いきなり…」

「うちの学年の魔女っ子ちゃんが言ってたんです。
人間は皆魔法使いだけど、大魔王の力で今は魔法を使う事は出来ない、って。
面白いと思いません?」

「へぇ。大魔王ねぇ」

ツキヒコは思惑ありげな笑みを浮かべる。

「で?それでお前はこんな本読んでたのか?」

ツキヒコはなまえの膝の本に目を向ける。
外国の童話集だ。

「まぁ。それもありますけど。童心に帰ってみようかと思いまして」

「久しぶりに読んでみたら案外面白いんですよ…?」

「へぇー」

ツキヒコは興味なさげに言う。
そのあからさまな様子になまえはくすくすと笑うと、空に手を翳す。

「良いですよね。夢があって…」

「…お前の“魔法使い”は、ヘッドだろ」

「へ…?」

腕を引かれ、目の前にツキヒコの顔がある。
唇に柔らかい物が触れていると気付いてたのは一拍おいてからだ。

「!?っ…ぅ…」

なまえは思わず身体を引こうとするが、手首を掴まれ身動きが取れない。
どれ位の時間触れ合っていたのか、やっと唇が離れる。
ツキヒコは親指でなまえの唇をなぞる。

「っ〜…ちょっ、と…何考えて…!」

なまえは僅かに頬を赤らめながら、今度こそ胸を押して身体を離す。
怒っているとも困惑しているとも取れない表情を浮かべるなまえにツキヒコは満足そうに口端をつり上げる。

「…これも、罰ゲームだとか、言うんですか」

「…そう言って欲しいのか?」

「…じゃあ、何なんですか」


「―俺は、お前が欲しい」

「ぇ…?」

なまえは思わぬ言葉に目を丸くする。

「先に言っておくが、キスした事も、今言った事も、冗談じゃないぜ?全部本気だ」

「…」

ツキヒコは呆れたように小さく笑う。

「そういう奴だよ。お前は」

なまえの頭を数回ぽんぽんと軽く叩く。

「…?」

「わかってた。お前は俺を選ばないって―」
―お前の心を占めてるものは、物凄く少ないからな…。

「だから、今言った事は忘れても良い」

ツキヒコはそう言うと背を向ける。

「、…忘れない…っ」

「なまえ?」

「忘れないよ…っ」

「そりゃどーも。じゃーな。また後で会おうぜ」
―もしかしたら、俺はお前のそーいう甘ちゃんなトコが好きだったのかもな。

図書室を出たツキヒコは足を止め、苦笑交じりの溜息をつく。


「もし魔法が使えるなら、俺はお前の心が欲しいねぇ…」

ツキヒコは窓の外のグラウンドを眺めながら呟いた。

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