サイレントノイズ

その穢れた手で、僕の頬を優しく撫でておくれよ。


「―…!」


僅かに空気を揺らした銃声に、綴は小さく肩を揺らし、窓の外を振り返る。


ほんの一瞬揺らいだ空気はもう夜の静寂を取り戻し、何事もなかったかのように冷たい夜風が木々を揺らす。


「…」


音の大きさからして、そう近くではない。
かと言って、街からは少し離れた場所にあるこの学園に街からの銃声が届く訳はない。


「まさか…」


反射的に脳裏を掠めるのは、ナイトクラスの学生寮だった。だとすれば、銃声はハンターのもの、或いは何らかの危険信号と見て間違いはないだろう。


「っ…」


思わず部屋を飛び出そうとして駆けだすが、はた、とドアの手前でぴたり、と足を留める。


「…」


―行って、どうするの…?もし、撃たれたのが零だったら…?


―庇う…?


―…殺す…―?


その選択肢に、ぞくり、と背筋が震える。


「私、は…」


無意識に、声が震える。ドアノブに触れた指先が酷く冷たくて、金属に触れているのに、冷たさはあまり伝わってこない。


どくどく、と激しく脈打つ自分の鼓動が、やたら五月蠅く感じた。


「…っ」


"『俺は、お前に庇って欲しいんじゃない…』"


この気持ちのままに動く事は、出来ない。
ハンターとして、そして、零を大切に思う人間として―。


零は―彼は、それを望まないと言った。


そう思ってから、綴は眉間に皺を刻み、泣き笑いの様な表情を浮かべる。


「ホント、嫌だなぁ…」


俯くと、髪がさらり、と零れ、綴の表情を隠す。
辛うじて見える口許は、自嘲と悔しさが入り混じった様だった。


―私は、零を、零の想いを、言い訳にしてる…。


―結局は弱い自分をごまかす為に、利用してる。


「っ…」


ドアノブから滑り落ちる様に離された手はだらり、と垂れ、綴はドアを閉めると、とぼとぼとベッドに向かい、崩れ落ちる様に腰を下ろす。


自分が酷く情けなくて、悔しかった。


「…っ」


―ねぇ、教えてよ、師匠…。


「…殺したく、ないよ…」


真っ白な天井を見つめる。蛍光灯が少し眩しくて、僅かに目を細める。


―そうする以外には、できる事は、ないの…?


瞼を閉じれば、夜と同じ、闇が広がる。早く朝になればいいのに、と心の中でぼんやりと呟く。


"弱虫め"―夢の中で誰かが、耳元でそう囁いた。


―夢から覚めたら、幸せなふりをするの。

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