帰りを待っててあげようかな、なんて思ってたけれど、結局眠ってしまって明け方に目が覚めた。
きっと寝子は始発でもうすぐ帰ってくるだろうけど、帰ってきてもすぐ寝ちゃうだろうし、まあいいか。無事に帰ってくるよね。
でも、そんな甘い考えはすぐに覆されることになった。
ドアノッカーがけたたましく叩かれる。遠くでなにか叫び声まで聞こえる。
場所が場所だけに、この時間帯は朝まで呑んだ酔っぱらいが暴れてることもあるんだよね。こんな奥まった場所まで迷い込んでくるのは珍しいけど、無くはない。
昔じゃあるまいし、いちいち相手にして朝ごはんにするのも面倒。それにぼくは朝が早いほうじゃないし、とっても寒いし、今日はもうちょっとベッドの中で微睡んでいたい。
そう思っていたら、ベッドサイドに置いていた携帯が鳴った。着信は、寝子。
「もしもし?」
「ウタ!鍵がない!開けてーっ!」
……そういうこと。
仕方なく暖かい布団から這い出て、パーカーを羽織って玄関へ向かうと、靴箱の上に昨日渡したはずの鍵。
初日だし、仕方ないかなと思いながら、ぼくはドアを開ける。
薄暗い空に舞う風は冷え切っていて、寝起きでぼんやりしたぼくの頭を少しだけはっきりさせた。
「鍵忘れてったんだね」
「ウタあああ!凍え死ぬかと思った!」
「うん、とっても寒いし、とっても酒臭いね」
始発ギリギリまで呑んだのか。言わなくてもわかる。察する。
「蓮示くんがめちゃくちゃ喋ってて面白かったよ!」
「あぁ……それで一緒になって呑み過ぎたわけ」
「いいえ!適量でーす!」
昔から無茶な呑み方をする人だから、きみの適量が本当はどれくらいなのか知らないけれど。
完全に素面なぼくからすると、完璧な呑み過ぎに見えるんだよね。
「せっかく新しい部屋なのに」
コートや鞄をどんどん僕に渡して、自分の部屋のドアを開けた寝子は、心底残念そうにそう呟く。
そしてぼくが、どうしたの、と言い終わらないうちに、彼女はとんでもないことを言い出した。
「寒いからベッド借りるね!」
「は?」
待って。さすがに待って。その理論はおかしい。
「まだ早いし、ぼくも寝たいんだけどな」
「じゃあ、一緒に寝よ!大丈夫、だいじょーぶ!」
置いてけぼりなぼくをよそに、寝子はぼくの部屋へ向かうと一目散にベッドに飛び込む。
「ほら、思った通り、やっぱりあったかーい!」
仕方ないからここは譲って、店のソファででも寝直そう。
コートや鞄をベッドサイドに置いてあげて、さっきまで寝てたはずのベッドではしゃぐ彼女を見て、小さく溜め息をついたぼくの手を握ったのは、寝子。
「さむい」
すこし前に、ぼくは彼女のことを「他人とは思えない」って思いました。
前言撤回しようかな。何考えてるのかわからなくなってきた。いや、きっと酔ってるせいで、本当に寒いだけだと思うけど。
もういい。わかった。目が覚めたときに、状況が飲み込めなくて混乱するといいよ。
寝子に促されるまま同じベッドに潜り込んだぼくは、なかなか寝付けない覚悟をしてた。
けれど、自分と違う体温は意外にも心地よくて、すぐにうとうとし始めたみたいだった。
こういうのも悪くないんだな、って思った瞬間、ぼくは意識を手放した。
繋がれた手は、そのまま、そのままで。