ハイド・アンド・シーク。

白く色づいていく街を夜が包んで、モノクロに染まっていく。サングラス越しにぼくが見る世界と、現実の世界がリンクしていくみたい。

4区に戻ってきたものの、真っ直ぐ帰る気にもならなくて遠回りする。
行くアテもなくフラフラしてたら顔見知りに声をかけられて、軽く喋る。

こういうの、なんだか懐かしい感覚。理由もないのに街をフラついて、なりゆきで喧嘩したりして。それでも楽しかったし、10代なんてきっとそんな感じだよ。

帰りたくないけど荷物もあるし、適当なところで遊ぶ気分でもないし、やっぱり自然と帰り着いてしまって。
こんな日も暮れた遅い時間、しかも雪がチラつく中で来るお客さんなんて滅多にいないけど、看板をopenに掛け替えた。

いつもより店内の照明を落として、暗がりにぼんやり浮かぶマスク。うん、悪くない。ちょっと自画自賛しながら暖房と作業机のライトをつける。
音楽はどうしようかな。今日はまったりしたシューゲイザーを鳴らそう。洪水みたいなギターが気持ちいい。

見繕ってきた布やパーツを机の上に並べて、ストックしてる材料と合わせてみたりして。新しい素材に出会うのは楽しい。今までとは違う、新しいものが生まれそうな予感がするから。

スケッチブックを出して、アイデアを書き留めていると時間なんて忘れる。やっぱりぼくは何かをつくることが好きなんだな、って再確認する。

きっと、人との関係も一緒だと思う。知り合って、お互いが少しずつつくっていくもの。だからぼくは友達をつくりたい、と思ったのかな。

「あれ?まだ開けてるの?」

すっかり集中してたみたいで、驚いて声のするほうを振り返る。
すると、マフラーをぐるぐる巻いて、モコモコしたニット帽をかぶった寝子が店内の様子を窺っていて、ぼくが居ることを確認すると入ってきて扉を閉めた。

「もう夜中だよ」
「嘘、何時?」
「12時、回ってるはず」

寝子はコートのポケットからスマホを取り出して、38分、と付け加える。

「全然気づかなかった」
「わかる。私も集中して文章打ってると時間忘れてるもん」
「さすがにもう店仕舞いしないとね」

作業台に散らばった細々したものを片付けて、看板をひっくり返そうと立ち上がったぼくに、寝子が思い出したように声をかけた。

「あ、ウタ、今ね、すっごいよ」
「なにが?」
「ドア開けたらわかるよ」

そう言って、寝子も入口へ駆け寄ってくる。
そして、いたずらっ子みたいな顔して、早く開けろって急かしてくる。

「わあ」
「すごいでしょ?!」

扉を開けると、冷凍庫みたいなキンキンに冷えた空気と、何もかもが真っ白になった世界が飛び込んできた。
遠くで鳴る風の音と、小さく聞こえる喧噪が混じって、世界の果てが口を開けて唸ってるみたいだ。

「雪、こんなに積もったんだね」
「そう。私も焦ってさ、急いで帰ってきたんだから」

人通りもない、まっさらな雪の中に足跡がひとつ。ぽつぽつと、まっすぐ店の前まで続いてる。
世界の果てからひとり逃げ出してきたみたいで、無事に帰ってきてよかった、ってなんだか切なくなる。

そんな気持ちを誤魔化すように、大雪の中で襲ってくるやつはいないと思うけど、と前置きしてぼくは話しかけた。

「こんな日にひとりで帰ってくるなら、迎えくらい行くのに」
「大丈夫だよ、私、結構強いもん」

ほんとはそういう意味じゃなくて、とは言えなくて、それもそうだね、って笑いながら返す。

オレンジ色の街灯だけが色を添えた、きみとぼくだけの真っ白な世界。
隣の寝子の手には、あったかそうな手袋がしっかり嵌められてた。

ぼくは握りそびれてしまった手にそっと息を吹きかけて、白い世界に白い息が隠れて、消えた。