二振目


「そろそろ二振目が欲しい」

一か月目の朝餉時、共に食事をしている三日月にこう切り出した。
このご飯は私が作ったものである。というか、三食全て私が作っている。本丸の掃除も、まだ小さい畑の仕事も全て審神者である私だ。
世話されるのスキーじじいこと三日月は驚くほど何もできなかった。不器用って訳ではないのだろうが、何せマイペース中のマイペース。その上まだ顕現されて日が浅いせいか、人型であることが慣れておらず、頭ぶつけたり転んだり……いい加減切れた私は唯一まともに出来た茶を入れることだけ命じた。それ以外は厨に入ることは禁じて。
そうこうしている内に私の審神者業の仕事も増えていき、三日月の世話にまで手が回らなくなってきてのこの発言だ。世の中の主婦ってすげーななんて、遠い目になる。
味噌汁を啜りながら三日月の方を見れば驚いたかのように両目を見開いていた。え、驚くところじゃなくね?

「ふむ…そうだな」
「でしょ?私もう畑仕事一人でするの嫌だよー。身体バキバキだよー。このままじゃムキムキになっちゃうよー。そんな審神者、三日月だって嫌でしょ?」

またしても数回瞬きした後に「俺はどんな主でも好きだぞ」なんて目を細めて言われた。
イケメンって何でこうも恥ずかしい事をサラリと言うのかね…。じじいのくせに。
赤くなった頬を誤魔化すようにゴホンと咳をした。

「とにかく、だ。もう一振り…いや、せめて一部隊作れるぐらいの刀が欲しい」
「ほほう。では後、五振りか。主は貪欲、だな」

貪欲ではなく、普通の欲求だし、必要な事なんですが…。やれやれといった表情の三日月に軽く怒りを覚えつつ、三日月の口の周りについた食べかすを拭ってやる。…介護かよ。
食器を片付けた後、準備が出来次第、鍛刀する事を三日月に告げ、一度自室に戻った。
前回(一か月前)はオール50で全て失敗した。という訳で今日は事前に調べていた太刀や打刀が出やすいと言われているレシピで鍛刀しようと思う。そうと決まれば、のほほんと準備してる(であろう)三日月を回収して鍛刀部屋へ行こう。
きっちり身支度をして、自室を出れば珍しく準備がきっちりと終わった三日月が襖に寄り掛かっていた。

「準備とやらは出来たのか?」
「うん。よしっいざゆかんっ」



熱のこもる部屋に自身の汗が滴り落ちる。
作るのは私ではないけれど、資材の投入・霊力の注入等は自分でやらなくてはならないので、鍛刀部屋にいるんだが…(ちなみに近侍の三日月は入口で待機している)。
例のレシピ通りの資材を投入したと同時に鍛刀時間が表示され、成功したことが分かった。思わずその場でジャンプしたのは仕方がない事だろう。
こんのすけが言っていた通り前失敗したのは三日月を顕現させたことによって霊力が消費されていたからなのかもしれない。
時間は3時間20分。三日月に続きレア刀かよ!とセルフで突っ込みを入れてしまった。
一先ずは部屋の入口で待機している三日月に報告しよう。
三日月を呼べば、静かに入口が開いた。

「呼んだか主」
「うん。やったよ三日月!成功だ!!」
「そうか、よかったなぁ」
「あれ?三日月は嬉しくないの?一振り増えれば戦闘少し楽になるのに…」
「ん?いや、なぁに。気にするな」

なんだか歯切れの悪い三日月に首を傾げつつ、今回はお手伝い札を使うことにしたので、札をかざした。
一振りの美しい刀が出来上がる。白くて美しい太刀だ。
女の私が持つには重いそれを三日月が手渡してくる。ずっしりと手のひら一杯にその重みを感じつつ刀に力を込めた。

「よっ。鶴丸国永だ。俺みたいのが突然来て驚いたか?」

つるまるくになが。言葉は発しなかったが覚えるように口を動かす。
顕現したのは全身真っ白な神様だった。

「君がここの主か?」
「は、はいっ」
「よろしく頼む」

差し出された手に思わず飛びついた。
飛びつかれた鶴丸は驚いて声を上げていたが、そんな事構っていられなかった。
来てくれてありがとうと、半泣きになりながら言えば少しどころかだいぶ引かれた。ずっと失敗だったから嬉しいんだもん仕方ないじゃないか、なんて思っていたら私の後ろで待機していた三日月にやんわりと引き離された。

「主、もういいだろう。鶴丸国永も困っているぞ」

鶴丸の方を向いているから三日月がどんな顔をしていたかわからないが、少しだけ怒っているようだった。先程まで困った顔をしていた鶴丸も心なしか少し青い顔をしている。
…ん?青い顔?

「鶴丸?どうかした?」
「えっ!?あー…いや、そ、そうだ。ここは他に誰かいるのか?」
「ううん。私と三日月だけだよ。貴方は二振り目」

そう告げれば「そうか」とだけ返ってきた。
顔色が悪い理由は分からないが、もしかして具合が悪い?そう聞くと首を横に振り、否定される。

「主、鶴丸に本丸を案内しなくてよいのか?」
「あっそうだね!顕現されたばかりで、人の身体にもまだ慣れていないだろうから、今日は本丸を見て回るだけにしようか。出陣は明日からね、三日月も」
「相、わかった。本丸の案内は俺がしよう」
「え…三日月が進んで仕事するなんて…」

すごく不気味だ。そう返せば「これも近侍の仕事だろう。それに主は仕事があるのではないか?」と言われてしまい、今日中に終わらせないといけない書類を思い出してしまったので三日月の言葉に甘えて任せることにした。

その後、昼餉の席でいつも以上ににっこにこしている三日月と、げっそりした鶴丸がおて、もう仲良くなったのか…と三日月を羨ましく思う私がいた。

ALICE+