添い寝


眠い。
私は今日、朝から非常に眠かった。というのも鍛刀やドロップが少ないこの本丸は月日をかさむ毎に、その分書類や雑用等を任される機会が多い。その書類の期日が近いのもあり、連日睡眠時間を削り頑張っていた……が、流石に限界が近いかもしれない。
一応、寝てはいるから大丈夫だと思うけど、今日一日だけ、そう今日だけ少し頑張ろう。そうと決まれば、早速止めていた手を動かす。この書類にサインをしたら次はパソコンに打ち込みしなきゃ…それが終わったら次は昼に皆が帰ってくるから、その前に昼餉の用意。今日は午後に出陣予定はいれていないので皆には内番をやってもらって…。少し痛む目の端を抑えつつ、今日の予定を頭の中で組んでいく。時間通りに予定を組み込むのが私は苦手だ。

皆が帰ってくる時間。今日の隊長は小狐丸だ。
最初は三日月だけだった隊長役も最近は適度に交代してもらっている。そして、何故かあんなに近侍に拘っていた三日月はようやく、少しだけだが近侍としての仕事を以前よりはやるようになった。相変わらず料理に関しては誰にも任せられない状況なのが痛手だが…。

「皆おかえりー昼餉の用意出来てるから、着替えておいで。あ、小狐丸は昼餉の前に私に報告ね」
「着替え終えましたら、ぬしさまの所へ行きますゆえ」
「りょーかい」

皆の前では出来るだけ元気でいたいので、ふらつかない様に壁に背中を預ける。普段はそんな事をしないので変な目で見られるかな、と思ったが、疲れているようで誰も私の行動を気に留めていないようだ。
小狐丸から報告を聞き、昼餉を終えて一息つく。執務室の前の縁側に腰かけ、鶯丸に入れてもらったお茶を飲みながらも頭の中では仕事の事を考えていた。
あと少しで終わるとは言え、その後は今日の日課の報告書も作らなければならないので、時間はかかるだろう。

「主」
「……」
「主?寝ておるのか?」
「ん…?あぁ、三日月か。どうかした?」

ぼーっと考え事をしていたら、いつの間にか三日月が隣に座り、こちらを覗き込む様に身を乗り出していた。足と足の間は隙間なくピッタリとくっついている。…近いな。いや、三日月が近いのはいつもの事か。
最初こそイケメンの近い距離感にドギマギしていたが最近はすっかり慣れてしまい、然程反応する事もなくなった。こんなに近いのは三日月ぐらいなのだが。
何の気なしに三日月の方に視線をやると、真剣な顔つきで何かを考える様なポーズをとってこちらを見ていた。…なんだ?

「主よ…おぬし寝ておるか?」

手を差し出され、目の下に優しく触れられる。指先から目の下に三日月の体温が伝わり心地が良い。
もしかしなくとも隈が酷いのだろう。一応、化粧で誤魔化してたんだけどなぁ。

「んー…まだ、大丈夫だよ」
「人は睡眠をとらぬと身体に支障をきたすのだろう?」
「まぁ、そうなんだけどね。まだ終わってない書類あるし…少しは寝てるからだい」

言い終わらない内に三日月の手のひらによって視界を遮られた。

「…あの、三日月さん?何をしているんデスカ?」

視界が遮られているのでもちをん真っ暗。三日月の表情は分からない。

「主は寝た方が良いのではないか?」
「んん。いやだから、書類あるんだってば。ほら手避けてよ」

遮られている手を除けようと力を込めるが、びくともしない。
眠気は勿論あるが、今寝る訳にはいかないし、もう少し進めておかないと後々困るのは私なのだから。そうは思ったものの、三日月は一向に手を除けてくれない。どうしたものか。

「………駄目だ、主」
「……?」

耳元で囁かれると今までしっかりと開かれていた瞼が急に重くなるのを感じた。何故、急に。そう思うも抵抗など出来ず眠気に逆らえない。
身体に力が入らず、三日月の方へ倒れこんだ。視界を遮っていた手が外され三日月の方に視線をやるが、その顔を確認する前に私は瞼を閉じ、闇に包まれた。完全に思考が落ちる寸前、額に柔らかいものがふれた気がした。

「……お休み…………」



目を覚ますと私は三日月に抱きしめられる形で寝転がっていた。
太陽の位置から察するに寝てから然程時間は立っていないようだった。寝こけている三日月の腕の中から抜け出す。
…?寝転がっていた時はあまり感じなかったが身体が寝る前より妙に軽く感じる。眠気もなく、寝る前よりとてもスッキリしている。少し寝たからだろうか。
スッキリしたおかげで今なら書類も早めに終わらせることが出来る気がする。
三日月にブランケットをかけてやり、続きをやるべくペンを取った。

その日の夕餉時、三日月は妙に機嫌がいいように見えた。

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