新人さん

「料理のできる刀が欲しい」

とある夕餉時に、曰く、死んだような顔をした私はポツリと言葉を漏らした。これは前々から散々言っていることだ。あまりしつこく「新しい刀が欲しい〜!」と喚くと笑顔の怖い三日月に何かしら言われるから、最近はしつこく言わない様にしていたが、私は今日、おかずの味付けに文句を言われたので、ついに我慢できなくなり、その言葉を漏らしたのだった。
文句を言った小狐丸は一週間油揚げ抜きの刑にしてやる。

「おや…私も手伝っているけれど、やはり負担になっているのかな」
「うぅ…石切丸は手伝ってくれてるよ、よくやってくれてる…」
「俺は厨出入り禁止だからなぁ」
「俺もだな」
「俺は茶を入れる役目だからな」
「私は野生ゆえ…料理は少しばかり…」

野生関係ないし、石切丸以外許さない…。けど、鶴丸と三日月に料理を任せると私の仕事が増えるので、一生出禁だ。審神者、仕事もして料理も洗濯もして疲れたよ…。
ジロリと一同を見回せば、皆何かしら思う所があるのか三日月以外は目をそらした。目ェそらせよ、という念を込めて三日月を見るが、目をそらす気は無いらしく、じっとこちらを見返してくる…ので気まずくなって自分から目をそらした。なんだか負けた気分だ。
そんなに微笑まなくたって良いだろ…なんか恥ずかしいよ…。

「それでは今日はこの後、鍛刀するのかい?」
「そうするつもり…三日月」
「…相、わかった」

他の刀達には他の事を任せ、解散させた。
あまりに鍛刀が失敗するのでこの本丸では毎日は行っておらず今日は久々に鍛刀する事になる。三日月は不満そうな顔をしているが、一個隊も作れないようでは本丸としては駄目だ。
料理出来る刀が欲しいとは言ったが、あと一振り揃えば六振りになるので、それは鍛刀する理由の30%くらいだ。今は五振りで出陣等賄ってはいるが、初期刀が三日月だったから特別扱い受けているだけで、普通の本丸だったらテコ入れされていてもおかしくない。それでも新しい刀が来ない、もしくは戦績を上げれない様なら最悪クビ、になるだろう。
そんなことになったら私だって困る…せっかく皆と会えたのに。
だから今日の鍛刀はいつも以上に気合を入れて行うことにした。しばらく大量に霊力を使うこともなかったし、霊力不足とかも今は大丈夫だろう。

三日月には鍛刀部屋の外で待機してもらう。いつも通りのレシピを投入して、霊力を込めた。
辺りが眩しくなり目を瞑る……やがて光は小さくなり、期待に胸を膨らませながら目を開けた。…一振りの刀が視界に入る。大きさから、打刀…いや、太刀か。
見たことがない刀なので新しい刀だ。ほっと一息ついて、顕現する前に待機している三日月を呼び、一振りを見せた。

「………………よかったな主」
「うん。久々に成功だね」

刀の鞘部分をひと撫でして顕現出来るよう、霊力を込めた。久々の感覚。
刀が光だし、部屋全体がその光に包まれやがてそれは人の形になった。スーツのような衣装の上に立派な武具を付け、そして片目は眼帯で覆われている。

「僕は、燭台切光忠。青銅の燭台だって切れるんだよ。……うーん、やっぱ格好つかないな」

金色の瞳が私をとらえる。
しょくだいぎりみつただ…いつも通り、覚えるように口の中で呟く。私が待ち望んだ料理が出来る(らしい)刀だ!!頭の中で私は自身を褒めたたえた。
よくやった私!素晴らしいぞ私!語彙力がない?そんなの昔から知ってる!!

「私はここの主の審神者。彼は私の近侍の三日月宗近。よろしくね」
「うん。主も、えーと三日月さんもよろしくね」
「うむ、よろしく頼む」

三日月はいつも通り近侍の仕事で燭台切を本丸案内すると言って彼を連れて鍛刀部屋を出て行った。
一仕事を終えた私は一息つき、厨に足を運んだ。私たちはすでにご飯を食べ終えているが、今しがた顕現したばかりの燭台切はお腹が空いているかもしれないので、有り合わせのもので悪いが、何かこさえることにした。
たまたまお茶を入れに厨に来ていた鶯丸に新しい仲間が来た事を告げ、おにぎりと残っていた煮物を器に盛り、手ぬぐいも用意した所で三日月と燭台切が厨までやってきた。

「ここが厨だ……主、何をしておる」
「ん、顕現したばっかでお腹空いてるかなーって」
「良いにおいだね…主が作ったの?」
「うん。料理は私がやってるからね」
「へぇ……」

興味津々に調理器具を眺める燭台切に少し期待してしまう。いやでも個体差とかあるしなぁ…。
兎にも角にも用意したごはんを冷めない内に食べてもらう為に三人で広間まで来た。燭台切が食べている間、私と三日月はデザートに買ってあったプリンをいただくことにした。三日月がプリンを輝いた目で見つめていたので、また買ってこようと思う。それか作るかなぁ…。

「えーと、ごちそうさまでした」
「はいはい、お粗末様でした。食器は厨に置いておいてね、洗うから」
「いや作ってもらったんだし、自分で洗うよ」

なんていい子なんだっ…!思わず背の高い燭台切の頭を撫でれば、本人ではなく何故か三日月にその手を叩き落された。何でお前が怒るんだよ。
三日月は謝りもせず口元には笑みを浮かべていたが、目は笑っていなかった。

「あるじ」
「は、はい」
「今日はもう疲れただろう?休むといい」
「え、いやでも」
「休め」
「はい…」

その顔で押し切られてしまっては何も言えまい。
燭台切が困った様な顔をして私と三日月の顔を見ていたのは申し訳なかったが、こうなった三日月にどうこう言えもしないので、自室に戻ることにした……時、背中に燭台切から声がかかった。

「あ、主。明日の朝餉作り…僕も手伝っていいかな?」
「えっ!?もちろん!むしろ助かる!!」

朝餉の用意する時間を伝え、今度こそ広間を後にした。手伝ってくれる人員が増えるのは嬉しい事が。
そのおかげで私はこの時、三日月が面白くなさそうにしていた事に全く気付かなかったのである。

アラームを6時にセットしておやすみなさい。

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