06



「部活、なんだかいい感じらしいね」

 昼休みに名字が口にした言葉を聞いて、清水は箸を動かす手を止めた。

「誰かが言ってた?」
「うん。菅原くんが」

 自分の知らぬ間に再び接触があったことに驚きつつも、清水は平然とした態度のままだった。彼女はあまり、感情を表に出すのが得意ではない。

「知らない間に、菅原と仲良くなってて驚いた」

 それでもやはり日に日に、知らぬところで深まる関係性に、何も思わないわけではない。
 清水の言葉に今度は名字が驚きを見せる。あれ、私は菅原くんと仲良しになってるの? 確かに最近はよく話をするようになったけど。清水に言われ、ようやく気づき始めた事実を名字はまだ上手に受け取れない。

「……んー、仲良しなのかなあ?」
「違うの? 最近はよく名前から菅原の名前聞くからそうなのかなって思ったのに」
「え! 私そんなに菅原くんの話してる?」

 驚きと焦りが入り交じった顔で名字は清水に問う。ううん、菅原と名前の事を話したりするから余計そう感じるのかな? 清水の考えている事など知らぬ名字は「うわぁ、そっかあ」と呟き頬に手を当てる。

「なんか、恥ずかしいね」
「恥ずかしい?」
「菅原くんてさ、かっこよくない? 私としては顔とか話した感じとか結構タイプだから、話できたらなんかラッキーって思っててね」
「えっそうだったんだ」
「それを無意識に潔子ちゃんに楽しく話してたのかなーと思うとめちゃくちゃ恥ずかしい! いや、別に好きとかじゃないんだよ? そうじゃないんだけど好みの男の子と話できて浮かれてる私恥ずかしー! みたいな。しかも無意識! わー!」

 両手で顔を隠す彼女が可愛いと清水は思う。素直に気持ちを吐き出せるところも、はにかんで笑うところも。自分には絶対に出来ない事で、少し羨ましい。
 名前はたまに、私が男ならすぐさま潔子ちゃんに惚れるねと言うけれど、それはきっと私もだ。こんな可愛いところを見せられて好きにならない男の子っていないと思う。

「可愛らしくていいと思うよ」
「潔子ちゃん〜。けどやっぱり恥ずかしいからあんまり語らないようにする」
「別にいいのに。名前と恋バナするの久しぶりだから私は楽しいけど」
「もー! 恋バナじゃないよ!」

 清水は微笑む。もし。もしも本当に菅原が彼女のことをすきになって、彼女もまた菅原のことを好きになったら凄く良いんじゃないかな。こっちまで幸せになれそう。

「……ただ、ね」

 小さい声で名字が言う。

「私、男の子と話すの得意じゃないけど、菅原くんは話しやすいっていうか、あんまり緊張しないで話せるから、そこも凄く良いんだよね。1年生の時に私、東峰くんと同じクラスだったって前に言ったじゃん? 初めて東峰くんと話したとき緊張で目も合わせられなかったんだよ〜。ていうかまともに話せるようになるまで半年くらいかかったなって記憶が……」
「ふふ。そんなに?」
「や、今は普通に話せるけどね? だからね、菅原くんは緊張しないし、イケメンだし、話せたらラッキー! それだけ!」

 うんうん、と頷く名字はパックのジュースを飲み干した。その様子を清水は見つめる。つまらないような、でも少しほっとしたような。だけどやっぱり悔しいような。
 大好きなこの子に幸せな恋が訪れるならとっても嬉しいことだけど、でも少し寂しいかも。名前に彼氏が出来たら、潔子ちゃん潔子ちゃんと純真無垢に名前を呼んでくれることも減ってしまうのかなぁ、なんて。

「潔子ちゃん? 考え事?」
「ううん。何でもない」
「そう?」
「うん」

 それでも、応援したいな。名前が誰かを好きになったら全力で応援したい。いつも彼女が私にしてくれるように、私も彼女の力になりたい。

「けど、本当に好きな人が出来たら言ってね」
「え?」
「私、応援するから」
「き、潔子ちゃん……!」
「どこまで力になれるか分からないけど、頑張る」
「ありがとうだいすき!」

(16.11.27)

priv - back - next