#11



 終業式を迎えた日、友達とクレープを買って食べた。駅前でカラオケに行って、プリクラを撮った。思う存分楽しんだ時間はあっという間で、暗くなった空と進んだ時計の針を見て、解散となる。騒いだあとの静寂がなんとも言えないけれど、深々と降る雪の中、帰路を歩く。

「え、孝ちゃん」

 バスから降りて、わりとすぐのことだった。目の前の通りを学生の集団が歩いているなぁと目に入れると、その群れの中に知ってる顔があった。孝ちゃんだ。隣に、この前会った、えっと、なんだっけ、澤……澤村大地くん、か。よくよく見ると、何人か知ってるな。孝ちゃんの試合観に行ったときにいる人。つまり、バレー部の人。
 その団体の中で、孝ちゃんが笑っている。私に気が付くこともなく。ふと、冷静になった。試合を観に行ったときとはまた違う感覚。少し似ているけれど違う。私は立ち止まって、もちろん声なんてかけられなくて、孝ちゃんたちの団体が去るのを待った。方向はほとんど一緒だろうし、距離を開けないと気まずい。
 足はその場に張り付けたまま、孝ちゃんたちの背中を見送る。1人だけいる女の子はマネージャー、だよね。綺麗な子だからよく覚えている。いいな。単純に、そんな感情。

「……さむ」

 マフラーに顔を埋めて、張り付いていた足を一歩前に出した。グッ、グッ。水気を含んだ雪に私の足跡が残る。孝ちゃんたちの団体は、その後しばらく進んで、それぞれの分かれ道でバラバラになっていった。そんな様子を後ろから見つめる女子高生。怪しいな。
 最終的に……というか、孝ちゃんが分かれた道を私も進んで一人になったその背中を追った。まあ、家が隣だし別に尾行しているわけではないのだけど、気分としてはそんな感じ。
 やっぱり、クリスマスプレゼント買えば良かったかな。マフラー。突然、私の頭にそんなことが浮かんだ。孝ちゃんがくしゃみをしたからかもしれない。

「……おーい!」

 私の少し大きな声に、孝ちゃんが振り向く。大きく手を降って、私だよとアピールすると、孝ちゃんも同じように振り返した。私は駆ける。雪を蹴って。

「今帰り?」
「そう。友達と遊んでた」
「そっか。じゃー丁度同じだったんだな」
「うん。でもちょっと尾行しちゃった」
「尾行?」
「バレー部の人達といたから」
「あー…悪い」

 別に孝ちゃんが謝ることじゃない。困ったように笑う孝ちゃんを見て思ったけれど、なんか可愛くないような気がして言えなかった。気付いてくれなくて寂しかったぞー、ぷんぷん! とか、そういうのなのかな。あざといくらいの女子高生って。
 私と孝ちゃんは雪の積もる道を歩く。街灯の下、閑静な通り。グッ、グッ。雪を踏む音がやけに耳に届く。

「明日から休みだな」
「でも孝ちゃんは部活でしょ?」
「まあな。さすがに年末年始はないけど」
「そっか。マネージャーの子可愛いね」
「清水? だろ。すげー人気」
「わかる。そんな感じする。たくさん告白とかされそう」
「恐れ多くて逆に言えないってやつも多いみたいだけどな」
「ふうん」

 別にそこまで気にしてませんよ、という雰囲気を出してみる。

「名前は?」
「え、なにが?」

 私は驚いて孝ちゃんを見た。

「告白とか、そういうの」
「どしたの、急に」
「別に」
「…あるような、ないような」
「なんだよそれ」

 身体の内側がグラグラする感じ。孝ちゃんとこう言うトークしないし、なんで孝ちゃんがそんなこと聞いてくるのか分からないし、いや、気紛れかもしれないけど。でも、頭に及川くんが浮かぶ。底抜けに明るいような笑顔をした及川くんが。
 孝ちゃんは、私が及川くんに好かれていても何も思わないだろう。孝ちゃんは、私を幼馴染以上に見ることってないのかな。手を繋ぎたいとか、キスをしたいだとか、恋人だからできることを、私とは想像出来ないのかな。
 
「……好きな人、いるし、私」

 それが孝ちゃんだとはまだ言えないけれど。動揺を抑えて言うと、孝ちゃんは驚いた顔をして「そっか」と言った。なんだ、そっかって。それだけか。もっとこう、あるだろ。ちょっと不服。家の前に着いた私は孝ちゃんを見上げた。

「……じゃーね。孝ちゃん、またね」
「え、なんか怒ってる?」
「べっつにー」

 ひらひらと手を降って私は家へ入る。ドアを締める間際、そっと孝ちゃんを見た。私が家に入るのを見つめている。その瞳が、その姿が、苦しいくらいに好きだと思ってしまった。

(15.12.30)