18-year-old
どこに惹かれているのか、と問われれば、瀬見英太に用意出来る答えは「わからない」だった。
分からないけれど、惹かれていることは確かだった。声や横顔、品性や笑った顔。大人の余裕があるようで、子供みたいに無邪気なところ。彼女を彼女たらしめる全てを、多分、気に入っているのだと瀬見は薄々と感じていた。
だけど自分達の間には年齢差があるし、学生と社会人という立場の違いもあるし、そういう想いを募らせることは良いとは思えなかった。それでも、どうしても、気持ちは動いてしまう。そうしてとうとう、募った想いは言葉になってしまった。
「俺、きっと、貴女のこと好きです」
言うべきではなかったのかな、と思ったのは東京に向かう新幹線の中だった。窓辺に移る仙台の街は加速するように置き去りになる。過ぎ去ったあの街にあの人はいる。
困った顔をしていたな。いや、きっと困っただろう。それでもあの人はたくさん考えるんだろうな。そういう人だから。迷惑になっていないといいけど。
だからと言って連絡をとる勇気もない瀬見の携帯に、名字の名前が表示されることもない。ならばせめて、あの人が泣かないでいますように。故郷を離れる瀬見にとって、出来ることは唯一その幸せを願うことだけだった。
仙台駅、在来線改札。ゴールデンウィークの帰省のため瀬見は故郷へと戻っていた。運命のいたずらか必然か、ぶつかった相手はほんの数ヶ月に会ったばかりだと言うのに、とても大人びて見えた。いや、実際自分よりも大人なのだから当たり前なのだが、瀬見にとっては彼女がまるで自分の知らない彼女のようでふとまた互いの間にある違いを感じてしまったのである。
平然を装うように、動揺を悟られぬように、そして気を使わせてしまわないように瀬見は名字と向かい合う。
「忘れ物したから。だから、聞いて」
そうしていつか自分がしたように、少し泣きそうな声で名字が話すのを聞いて瀬見の胸は痛いほど締め付けられた。腕を伸ばして触れたい気持ちを抑えて、名字の言葉に耳を傾ける。
そして気が付いた。この気持ちはどうしようも出来ないのだと。自分はやっぱりこの人に惹かれていて、愛しくて、どうしようもなく可愛いと思って、そして笑っていてほしいと思う。
それでも見えなくなる名字の背中を追いかける勇気はない。せめて自分がもっと大人だったら違うだろうか。
運命なんて言葉、柄ではないと思っていた。口にしたら友人には鼻で笑われてしまうだろう。だけどもし、そういう何か、目に見えない部分で繋がっているのなら。そう思った瀬見のとった行動は1つだった。
星が光る夜、公園のベンチで彼女を待つ。自分が帰省している間だけ。その間だけ、時間が出来たときにこの公園に来て、それでもしまたここで会うことが出来たらその時はこれを運命の恋と定めて、その運命に身を委せようと。
「隣、良いですか?」
瀬見が彼女を待つ夜が続いたある日、とうとうその瞬間はやってきた。
「まさか、会えるとは思ってなかったです」
少し照れながら言う瀬見に、名前は驚きのあまり声が出ない。
「……だから会えて結構嬉しいです、俺」
恋が、いつのまにか落ちてきていた。前触れもなく、音もなく。それはまるで流星群ように。
運命が今、彼らの頭上を流れていった。
(18.05.25)