20-year-old
「英太君なんか機嫌イイね。良いことあった?」
20歳の誕生日を翌日に控えたある日、天童は瀬見の顔を見て言った。
今日の夜、名字が東京に来て誕生日を祝ってくれると言うのだ。機嫌が良くなる以外になにがある。
「……別に」
「明日、彼女さんが誕生日を祝いにこっちに来てくれるらしいですよ」
「は、白布なんでそれ知って」
「一昨日会ったときに嬉しそうに話してたじゃないですか忘れたんですか」
「……そうだったか」
浮かれているのだ、とにかく。名前は自分が未成年であることにも気を使ってるということは瀬見自身もよくわかっていた。明日は二人の間を隔てる壁がようやく1枚壊れるのだ。
「へー何すんの?」
「知らねぇ。任せてほしいっていうから任せてる」
「サプライズですか?」
「そういうことするタイプじゃないとは思うけどな」
「ハタチの誕生日に年上の彼女とデートって……英太君のエッチ」
「なんでだよ!」
「いやぁだってハタチだよ? 成人だよ? お酒飲めちゃうんだよ? 何もないなんてことはないデショ」
愉快そうに言う天童に瀬見が顔をしかめる。何も期待していないと言えば嘘になるが、これ以上の追及は止してくれと思う瀬見の気持ちを代弁したのは白布だった。
「それ以上はさすがにゲスなんでやめましょう、天童さん」
「えー。英太君の照れてるところみたーい」
「……うぜぇ」
ちらりと時計を見るとちょうど彼女が仙台駅を出発する頃だろうか、そんなことを考えるとタイミングが合うように『今新幹線乗ったよ!』と笑顔の絵文字のついた連絡がくる。
「英太君。顔がにやけてるよ」
「俺も瀬見さんがそんなに長続きするとは思ってみませんでした。て言うか年上とか本当に意外で」
「お前らな……」
いや、それは瀬見が一番良くわかっていた。今でもこんなに恋い焦がれること。青い恋をしている自分は、確かにらしくないと思っている。
「ま、そのおかけで英太君のセンスゼロの服装も多少はまともになったんだから良かった良かった」
「あ、確かに言われてみればそうですね。前より良くなった気がします」
「はぁ? お前ら本当に言いたい放題だな」
「いやいや、愛ゆえでしょ」
「お前からの愛はいらねぇ」
「好きな人からの愛があれば良いって? キャー! 英太くんてばなんて一途」
からかいながら言う天童に瀬見は頭をかかえる。こんなからかわれ方をするんだったら彼女のことを口にしなければ良かった。
ため息を溢す瀬見に、いつまでも面白げに笑う天童が言う。
「イイコトあると良いね、英太君」
「だから天童さん、ゲスいです」
彼女が東京に到着するまであと1時間。もう少しコイツらと居なくてはいけないのか、と瀬見は再度ため息をこぼした。
「瀬見くん、お誕生日おめでとう! 20歳だね! 大人の仲間入りだね!」
「……あざっす」
12時を回ってすぐ、言われた名字からの言葉に瀬見ははにかむ。
「という訳で、じゃーん! 明日は出かける予定あるけど、お土産でちょっと良いお酒貰ったから少しだけ飲まない?」
「え」
「あ、これがプレゼントってわけじゃないよ? ちゃんといろいろ用意してるから楽しみにしてて」
「ありがとうございます。楽しみです。あー……けど1つ、飲む前に今貰いたいものがあって」
「貰いたいもの? 私用意出来てるかな……」
「それは大丈夫です。俺が今欲しいの、名前さんとのキスなんで」
「え」
「良いですよね?」
「……良いですよ、もちろん」
彼女の肩に手を置いて距離を詰める。あ、と触れる寸前で声を出したのは名字だった。
「えっ」
「ごめん、あげるのは私だよね。瀬見くん、目瞑って?」
見上げながら言われる言葉に高鳴りが速まる。言われた通りに瞼を下ろす瀬見に、唇が触れるまでのカウントダウンが始まる。
壁が1枚壊れて、1歩大人になった恋がまたここからスタートする。
(18.05.25)