ロードワーク中に震えたスマートフォンに表示された木兎の名前に宮は立ち止まってイヤホンにある通話ボタンを押した。

『ツムツム! 緊急事態発生!』
「緊急事態……? あれやろ、しょーもないことやろ?」
『名字が危ない!』
「は?」
『なんかつけられてるんだって』
「もう少し詳しく言うてくれ」
『仕事帰りになんかつけられてるっぽくて? どーしようって』
「は……なんなんそれ」
『とりあえずコンビニとか行ってって言っといたからツムツム行ってあげて!』
「んな簡単に言うなや」
『ツムツム行かないから俺行くけどいーの?』
「行きたいならいけばいいやん」
『俺が名字のヒーローになっちゃうよ?』
「ヒーローて……」
『良いの!? 俺めっちゃかっこよくね?』
「……別に良いんちゃうの」
『ハッ……てかツムツムのほうが名字の家近くね? 俺んとこから行くとめっちゃ時間かかるじゃん! 危ないじゃん!』
「ほんまにアイツヤバいことになっとるん?」
『怖がってた!』
「……今から行くわ」
『ありがとう! 名字に気をつけてって言っておいて!』
「忘れんかったらな」

 脳裏に名字の顔が浮かぶ。先日のやりとりを思い出して、だけどすぐに足は動き出した。誰かがヒーローになるのだったら、なるのは自分だ。スマートフォンだけを持って電車に乗り込んで早く早くともどかさしさを感じながら名字のことを考える。
 たどり着くまであと20分。
 
(20.07.01)