それはゴールデンウィーク明けに突然宣言された。
「はいそれじゃあ今から席替えします」
朝のホームルームが始まってすぐ、何の知らせもなかった教室は不満と歓喜の声で満ちていた。
「私この席結構好きなんだけどなあ」
不満の声を後押しするような私の言葉に、前の席のガモちゃんは「わかるよ」と言ってくれる。
不正はするなよと言う担任の声と共にまわってくる席の番号が書かれた紙が入っているボックス。角が潰れた元正方形の箱の中に私たちの運命が託されているなんて。
「全員引いたら黒板に書かれた番号の場所に移動な」
渋々と言った様子で、クラスの中で大移動が始まる。自分以外の番号を確認する余裕もなく黒板に書かかれた場所に移動した。廊下側から2列目の前から3番目のこの場所は可もなく不可もなくという感じだったけれど、あと2つくらいは後ろが良かったなという感想だ。
「うそ、名前そこ?」
「そうだよ。元也は?」
「俺ここなんだけど。名前俺の事好きすぎじゃん!」
「いやそっちこそ」
まあそれでも1番前じゃなかったしと思っていると、廊下側の隣に机と椅子を置いた元也が可笑しそうに言った。斜め前だった人が隣にくる確率って何パーセントなんだろうと考えながら私はガモちゃんのいる場所を探した。雑然とした教室内を見渡すと、どうやらガモちゃんは窓側の列の後ろから2番目という席替えランキングで上位に食い込むであろう場所をゲットしたようだった。
(私もあそこらへんの席が良かった⋯⋯!)
私の視線に気が付いたガモちゃんと目が合って手を振り合う。ふと視線をずらすと、私とガモちゃんの間あたりの位置に佐久早くんが机を置いた。
「佐久早ど真ん中の席か」
ガモちゃんの姿が半分佐久早くんで隠れる。
「でも後ろ側だからちょっと羨ましい」
「名前には隣に俺がいるじゃん?」
「ねぇうけるんだけど」
正直特別良い席ではないけれど、確かに隣が元也だし。そんなに悪くもないのかなと思う。
ホームルームが終わると1時間目の先生はすぐにやってきた。授業はわかりやすいけど雑談が多いこの先生は、今日も授業後半から話が脱線しだして自分の高校時代の恋愛について語り始める。それを何となく聞きながらゴールデンウィーク前にガモちゃんと佐久早くんのことについて話したことを思い出した。
授業終了の音が鳴った後、私はすぐに元也に訊ねた。
「そう言えばさ、佐久早くんてどんな女の子がタイプなの?」
「いきなりなんで?」
「や、前にそういう話があがって」
「どんな⋯⋯か。佐久早そういう話しないから俺もよくわからないけど、んー⋯⋯小学生の時に凄い清楚で綺麗な先生がいて、今思えば佐久早ってその先生にはよく懐いてたなって気がする。懐いてたって言うか廊下とかでその先生と話してるのよく見かけたって感じだけど」
「年上清楚系か⋯⋯」
「いや本当にわからないけど。俺、あの頃佐久早のことよく知らなかったし」
元也はそう言ったけれど、私はすごく納得していた。脳内で年上清楚美人を佐久早くんの隣に置くとすごくしっくりくる。年上清楚美人って誰ですかと言う感じだけど。
そもそも佐久早くんて今まで誰かと付き合ったことあるのだろうか。潔癖症って言うけど手を繋ぐ時とかキスとかどうするんだろう。
(さすがにそれを考えるの失礼か。私の発想気持ち悪いな⋯⋯)
「まあアイツ潔癖だしネガティブだから付き合うのは大変だと思うけど」
「確かにね」
「でも意外とって言うか、普通に一途だと思う」
「浮気とかはしなさそうだよね。逆に浮気も絶対に許さなさそう。言い訳も聞いてくれない感じ? いや、浮気する時点で言い訳もなにもないけどさ」
本人の知らないところでされる会話に、佐久早くんが気が付く様子はない。ガモちゃんと佐久早くんがうまくいけば嬉しいしその為に何か出来るならしたいとは思うけれど、2人の意に反するような事はしたくない。特に佐久早くんは第3者からのそういう行為を嫌いそうだなと思う。
「正直、佐久早が誰かと付き合ったらその時点でだいぶ驚くけど、佐久早が選んだなら悪い相手じゃないだろうし。清楚でも清楚じゃなくても年上でも年下でも別に良いんじゃんって俺は思うけど」
「好みのタイプと実際付き合う人は別って言うもんね」
「でも佐久早に彼女が出来たら部活に激震が走るけど」
なるほど。つまりそれくらい佐久早くんが誰かと付き合うことは想像つかないことで、稀有な事だと言うことか。
だけど、元也との会話を総括して思う。
「潔癖だしネガティブだとしても、佐久早くんみたいな人と付き合える子ってもしかしたら最高に幸せなのかもしれないね」
元也は笑うだけだった。
(20.09.15)