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 終わらない夜を背負いながらようやく中間地点までたどり着いた。
 ここは途中のチェックポイントと比べると生徒や先生、保護者の数が多い。クラスと名前を告げると、後半戦へのエネルギー補給として豚汁とカロリー補給用のお菓子が支給される。

「もう1時だよ!? 普段なら寝てる⋯⋯」
「わたしも若干眠いかも」

 土手に座って休憩しようと座れそうな場所を探している途中、私は危うく人とぶつかりそうになる。すいません、と謝るよりも先にこちらをみたその子達はガモちゃんの顔を見ると花を咲かせた。

「あ、ガモちゃん! 久しぶりじゃない?」
「久しぶり」
「ガモちゃんたちも今着いたの?」
「うん」
「そういえばさ!」

 ちらりとガモちゃんが私を見る。あ、これは積もる話があるやつかもしれないと私は笑う。いいよ気にしないでと気持ちを込めて。
 顔は見たことがあったけれど私は話したこともない子たちだしと思い、ガモちゃんに一声かけてから再度人の少ない場所を探して待機することにした。

(元也とかどっかにいないかな)

 1人で食べるのも虚しいし誰か話せるような友達を探していると土手の上の方に佐久早くんが1人で座っているのを見かける。
 何気なく近付こうとして思い出したのはガモちゃんの言葉だった。躊躇ったままその場で固まって、やっぱり1人でガモちゃんを待とうと思った時にはもう佐久早くんとしっかり目が合っていた。

「あー⋯⋯佐久早くん。おつかれ」
「おつかれ」
「元也は?」
「後輩と話してる」
「そっか」
「名字も一人?」
「うん。ガモちゃん友達と話してて」

 土手に座る佐久早くんはおしりに段ボールを敷いていた。きっと先生の誰かからもらったのだろう。意地でも直に座ろうとしないその姿勢はもはや素晴らしいとさえ思う。

「食べるなら座れば。段ボール広げるし」

 そう言って佐久早くんは自分の隣の空いているスペースを一瞥した。

「⋯⋯じゃあ、失礼します」

 言うと、佐久早くんは段ボールを豪快に破いた。ナイトウォークにはおよそ似つかわしくない音が夜に奏でられて私は不覚にも笑ってしまいそうになる。歪な形で解体された段ボールに座る佐久早くんと少し間を開けて座ると、佐久早くんは既に自前の除菌シートで手を拭いているようだった。

「いる?」
「⋯⋯いる」

 お腹が空いていたのは事実だし、断って違うところに1人で座るのも感じ悪いし。言い訳めいたものを自分の中で浮かべてしまうのが悩ましいと思えた。

「佐久早くんもう食べたの?」
「食ってない」
「えっ」
「人の手作り苦手」
「ああ⋯⋯」

 確かにそうだったと私は保護者手作りの豚汁を食べる。お菓子でもよかったけれど今は温かいものが食べたかった。人の手作りが苦手って、例えば好きな女の子からもらうものもそうなのかな。疑問に思ったところで聞けないけれど。

「美味い?」
「ん? あ、うん。美味しい。温かいし」
「ふうん」
「佐久早くんは元也と一緒に歩いてたの?」
「別にそう言うわけじゃないけどたまたま歩くスピードが同じだった」

 そういうのを一緒に歩いているって言うんじゃないのかと思ったけれど、私はやっぱりガモちゃんの言葉を意識していて、普段なら言えることも今は全然言えそうにもなかった。

「佐久早くんたちはもっとずっと先に行ってると思ってた」
「まあわりと先にいる方だったけど、ここで結構ゆっくりしてる」
「疲れた?」
「疲れてはない」
「そっか」

 ガモちゃんは、私は佐久早くんとも仲が良いよねと言ったけれど実際はこうやって会話が長く続かないことのほうが多いし、実はそこまで仲良しとは言えないんじゃないかと思った。
 元也と比べると仲良しと呼ぶには足りない気がするし、それに元也とは沈黙があっても全然気にならないけれど、私は佐久早くんのと間に静寂が訪れると少し困る。話題を探さないとって気持ちになる。
 間を埋めるように食べていた豚汁はすぐに私の胃の中におさまってしまう。少し温かくなった身体に深夜の風が吹き抜ける。

「佐久早くんも元也も背が高いから歩幅あるし、きっとすぐにゴールまでたどり着いちゃうね」
「着いたところですぐに帰れないなら同じだろ」
「確かに着いた後もいろいろ話したりするもんね。眠くて頭入ってこないけど」

 でも確実に私よりは早く家に着くんじゃない? そう続く言葉は佐久早くんの瞳に消えていった。今までだって佐久早くんが私の方を見てることはあったのに、どうして今はこれまでのそれとは違うんだろう。
 夜だからなのか。星が綺麗だからなのか。月がよく見えるからなのか。ガモちゃんがあんなこと言ったからなのか。
 私が佐久早くんを好きになる可能性? そんなのあるんだろうか。
 佐久早くんの真っ黒な瞳は月が見えない夜のようだ。
 それまでこんなこと考えてたこともなかったのに、些細なきっかけで意識してしまうと私が佐久早くんを好きになる可能性は決してゼロではないのだと気付かされる。

「名字眠いんじゃない」
「えっどうして」
「急に黙ったから」
「そんなことない、けど」

 どちらかと言えば眠気も消えたくらいだけど。

(20.10.01)

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