でもやっぱりこれはナイトウォークという非日常が作り出すマジックなのだと思う。学園祭マジック然り、修学旅行マジック然り。
ガモちゃんは気にしないでと言ったけど、それでもやっぱり友達の好きな人を好きになろうとすることには抵抗がある。どうしても、その抵抗さえも振り切ってしまうくらい好きになることなんてよっぽどのことだ。
「古森から聞いたけど」
「うん」
「去年は歩きながら寝ようとしたらしいな」
「⋯⋯元也」
佐久早くんが薄く笑ったのがマスクをしていてもわかった。
「それは元也が面白ろ可笑しく言ってるだけで実際はチェックポイントの度に目を瞑ってたって話で、まあ確かにゴール直前は眠すぎて白目向いてたかもだけど⋯⋯」
「白目はやばいな」
「だって夜中の3時30分だよ? 夏休みじゃないとそんな夜更かししないって」
「夏休みならするのかよ」
そう言うってことは佐久早くんは長期の休みでも規則正しい生活を心がけると言うことか。まあ、バレー部は毎日部活もあるだろうし夜更かしとは縁がないのだろう。
「佐久早くんも私と同じで睡眠の質大事にしたい派だと思ったけど案外違うね?」
「なんだよそれ」
「こうやって夜更かししたら元に戻すの辛いしお肌にも良くないから気乗りしない派ってこと」
「まあ好んでやるようなものじゃないとは思うけど、やるからには最後まで歩く」
佐久早くんはもっと、めんどくさいことはやらないとか、必要ではないものに対して力を入れることはないのかなと思っていたから少しだけ驚いた。
でも思い返してみれば佐久早くんが教科書を忘れたところを見たことがないし、課題をやり忘れたなんてことも聞かないし。佐久早くんが物事を中途半端にするところって1度も見たことがない気がする。
「見すぎだろ⋯⋯」
今度は私がじっと佐久早くんの顔を見る。
居心地が悪いのか、佐久早くんは眉間に皺を寄せたかと思うとすぐに顔をそらした。
「佐久早くんてさ」
「⋯⋯なんだよ」
「すごくちゃんとしてるよね。妥協しないっていうか、信念は曲げねぇ! みたいな」
「急すぎるし意味がわからない」
「私、まだまだ佐久早くんのことわかってなかったみたい⋯⋯ごめんね」
「だから本当になんなんだよ」
佐久早くんを好きになるってどんな感覚なんだろう。
佐久早くんが好きになる人ってどんな人なんだろう。
少し前元也に聞いたときはガモちゃんとも話したし話題の1つとして訊ねたけれど、今は純粋に好奇心として気になった。
私は佐久早くんの泣いている顔を知らない。怒った顔も知らない。なによりそれらは佐久早くんにとって何を起因とするのかわからない。
よっぽどの未来がやってこない限り私は佐久早くんを好きになることはなくて、好きになったところで佐久早くんが好きになってくれるわけでもなくて。ああ、多分。佐久早くんと恋をするのは難しいんだろうななんてことを思った。
その新月みたいな瞳に、一体誰を映すんだろう?
「え、2人でピクニックしてんの?」
まあだからやっぱりこれは非日常が作り出したマジックということにしてしまおうと自分を納得させていると、土手を上がってきた元也が私達を交互に見比べてそう言う。
「地べたは汚いじゃん?」
「仲良しか」
「元也も座る?」
「さすがに狭いだろ。じゃなくてそろそろ行こうかって話だったんだけど⋯⋯え、名前1人なの?」
「ううん。ガモちゃんと一緒だったけど、他の友達と盛り上がってたから」
「後半は? 一緒に歩く?」
「いいよ。ガモちゃん戻ってきてくれると思うし」
「蒲生さんは立ちながら寝る名前を支えられないんじゃないかな」
「だから寝てないって!」
元也と笑いながら話している最中、佐久早くんは歪な段ボールを片しやすいサイズに畳んで先生のところへ戻しに行く。
佐久早くんが戻ってくるのを土手の上から見ながら元也は言った。
「知らない間にめちゃくちゃ仲良くなったのかと思った」
「普通だよ。男子なら元也が1番仲良しだし」
「恥ずかしげもなく言えるの本当凄いよ」
「事実だし」
いつ星が落ちてきてもおかしくない夜だった。
星と月と、街灯と。しんとした静けさの世界の中で歩いている私達は最強な存在である気がしてくる。
先に中間地点を去っていった元也たちに手を振って私はガモちゃんのところへ戻った。私と目が合うと友達の輪から抜けて駆け寄ってきてくれる。
「ごめんね、ずっと話し込んじゃってた」
「ううん、平気」
佐久早くんと話してたからとはすぐに言えなかった。
再び歩き始めてすぐその事を伝えるとガモちゃんは嫌な顔1つせず「なら良かった」と言ってくれた。すぐに言えなかったのは自分の中で後ろめたいと一瞬でも思ってしまったからだ。嫌だな。こういうのは好きじゃない。だからと言ってじゃあ何が正解だったかなんて私にもわからないけれど。
ゴールまでは残り半分。
朝が夜を飲み込む前にたどり着きたい。朝焼けを待つ夜を背負い、非日常の終わりへと向かって歩いていく。
夜は優しく私達を見守っていた。
(20.10.01)