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「名前はさ、佐久早のこと好きじゃないの?」

 唐突に発せられた元也の言葉に、私は一瞬その言葉の意味するところを深々と考えてしまった。

「⋯⋯うん?」
「あ、いや、言いたくないなら良いんだけど」

 ガモちゃんは体調不良から休みで、佐久早くんは委員会の仕事で教室にいないという昼休みの絶妙なタイミングを狙った話題だった。
 あまりにもナチュラルに聞いてくるものだから「え、普通に好きだけどなんで?」と言ってしまいそうになる。でも元也はきっとそういう意味で尋ねたわけじゃない。

「突然過ぎない?」
「むしろ最高のタイミングだと俺は思うけど」

 教室の窓際で寄りかかりながら元也を見上げる。私からすれば元也だって佐久早くん並みに大きいんだけど、佐久早くんから時々感じる威圧感みたいなものを感じたことは1度もない。けろっとした様子に、本当に言っても言わなくてもどっちでも良いんだろうなと思いながら私は会話を続けることを選択した。

「⋯⋯別に嫌いじゃないけど」
「それはまあわかってる」
「逆に好きって言ったらどうするわけ」
「まあ⋯⋯驚く?」
「嘘だ」
「嘘じゃないって。半分くらいは驚く」
「残りの半分は?」

 そう聞くと元也は「うーん」と呟いて、手に持っていた紙パックのジュースを飲んでから言った。

「秘密」
「なにそれ。なんか教え損な感じする」
「いやいやそんなことないって」

 そんなことあると思うんだけど。そもそも、ガモちゃんのことを考えれば迂闊に好きにはなれないし。

「元也の言うような気持ちはないよ」
「まじで?」
「⋯⋯だってガモちゃんに悪いし」
「あー⋯⋯なるほどな」
「友達と好きな人被るとか嫌じゃない? 元也だったら佐久早くんの好きな子好きになったりする?」
「ええー⋯⋯いやまあ敢えてはしないけど、なったらなったで仕方ないじゃん?」

 元也とこの手の会話をする事ってないから新鮮だけどなんか変な感じがする。それでも会話が途切れないと言うことは私も元也も嫌な話題というわけではないんだと思う。
 そもそも自分でも自分の気持ちがわかっていないにそれを他人に伝えるなんて無理な話だ。

「まあ女の友情と男の友情は違うか」
「どうだろ」

 それでもやっぱり思い出すのはナイトウォークの時にガモちゃんに言われた言葉だ。思い返せば元也の質問と同じことを私はガモちゃんに聞かれたんだった。その時私は佐久早くんのことは友達としか思っていないって答えたけれど、あれから4ヶ月と少し。気持ちが変化するには十分な時間と言えるんだろうか。

「⋯⋯なんか、わかんないんだよね」
「わかんないって?」

 ガモちゃんのことがなかったら好きになってたのかなとか、周りから聞かれたから無駄に意識しちゃってるのかなとか、自分では答えが出せそうにないことを考えてしまう。もしもの話を考えたって仕方がないのに。

「俺は蒲生さんとそんなに親しいわけじゃないからわかんないけど、別に名前が佐久早のこと好きになったところで怒ったりはしなそうとは思うけど」
「怒ったり⋯⋯はしないんじゃないかなあ」
「じゃあ友情にヒビが入るのが怖いとか?」
「ヒビ⋯⋯入るかなあ?」

 むしろ気を使って好きになれないのは違うって言われたくらいだし。多分、どちらかと言うと私の問題だ。

「なんか好きがよくわかんない」
「え?」
「佐久早くんて、私の中で不思議な立ち位置にいるんだよね」
「どんな立ち位置?」
「それもうまく言えない」

 はっきりしない物言いにも元也は急かすことをしなかった。
 それでも自分の中で感じることはある。あの夜どこまでも続いていくような空の下を歩いていた私と、今の私の気持ちは違う。それが恋だと断言出来るほどではないけれど、近い何かであるということはこれまでの経験則から導き出すことは出来た。
 私は佐久早くんに惹かれている。その事は紛れもない事実だった。
 
「あ、そうだ。来月の試合見に来る?」
「代表決定戦だっけ?」
「そう。なんだかんだ名前試合見に来たことないじゃん?」
「行きたいとは思ってたんだよ。部活の時間確認して行けそうならガモちゃんと一緒に行こうかな」
「来たらすっごいかっこいい俺が見られる」
「急に格好いいアピールは笑うからやめて」
「ちなみに佐久早もすっごいかっこいいと思う」

 そうだろうね。元也は仲が良すぎて忘れることもあるけれど、2人とも雑誌で注目されるくらい将来有望なプレーヤーだ。かっこ良くないわけがない。

「うん」

 積み重ねていく時間が気持ちを募らせる。知らない頃の自分にはきっともう戻れない。今日も、そして明日もまた、見えない想いを募らせて生きていくんだろう。

(20.10.22)

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