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 修学旅行まで1ヶ月を切って、ガモちゃんと服装どうする? なんて話をしている最中に思い出す。

「あ、ガモちゃん11月17日って空いてる? 一緒にバレー部の試合見に行かない?」
「バレー部って佐久早くんと古森くんのってこと?」
「うん。代表決定戦が墨田区の体育館であるらしいんだよね。勝ったら全国らしい」
「前に古森くんが言ってたやつ!」
「そうそう。その日、私の部活休みでガモちゃん良かったらどうかなあって」
「いいね、行く!」

 ハロウィンを目前に控えた世の中はオレンジ色の飾りつけで彩られいる。友達からもらうお菓子のパッケージもカボチャやコウモリの絵が飾られていて、意識しなくてもその日は近いと教えられる。
 それなのにその傍らではクリスマスイルミネーションの広告や、更にはおせちの予約の案内なんかも街中に散らばっていて、差し迫る年末に向けての怒涛のイベントラッシュに今年も残り少ないことを感じた。

「ハロウィン終わったら試合して、次の週には修学旅行かあ。そしたら12月になってクリスマスとお正月ってハード過ぎない? 今年早すぎない?」
「わかる。あっという間に3年生になりそうだよね」
「ね。進路決めないとなあ。ガモちゃん方向性きまってるんだっけ?」
「医療系だから理系クラス選択しようかなって思ってるよ」
「医療系かあ⋯⋯」

 高校に入学した頃、自分が何になりたいのかなんて漠然としたものでしかなかった。なのに気がつけばもう、どの系統に進みたいのか選択しなければならない場所まできていた。

(私たち、高校生活の半分は終わってるのか)

 ガモちゃんとも元也とも、卒業して離れ離れになっても連絡を取り合ったり時々会ったりする未来が想像出来るけれど、佐久早くんと私が制服姿以外で会うなんて想像は出来なかった。
 卒業してしまえばそれきり。もしかしたら街でばったり会うかもしれないし、友達から結婚したらしいよなんて聞いたりするかもしれないし。私と佐久早くんは1度離れてしまえばきっとまた交わるなんてことはないだろうからそういう未来の方が容易に想像出来てしまう。

「名前ちゃんは?」
「進学はするつもり! 学部とかはまだ迷ってるけど資格とれるところがいいな」
「将来食いっぱぐれたくないもんね!」
「あはは、そうそう。わかる」

 先ほど購買で買った、ジャックオランタンが描かれている個包装のお菓子を開けたガモちゃんが間を置いてから私の名前を呼んだ。

「⋯⋯名前ちゃんはさ」 

 お菓子はガモちゃんの口に運ばれることもないままその手に収まっているだけだ。先程とは違う雰囲気に私は少し驚きながらもガモちゃんの続く言葉を待った。

「あれから佐久早くんのこと、どう?」

 似たような話をつい最近元也ともしたなと思い返す。ナイトウォークからしばらく経って、ガモちゃんが改めてそう聞いてくるのはきっとなにかしらの理由があるんだろう。
 少し迷ったけれど、ここで誤魔化したり嘘を言ってしまうのが1番の不正解だと、私は今の自分の正直な思いを伝える。

「多分、ちょっと、本当にちょっとなんだけど、気になってる。あ、気になってるっていうのは、好きっていうより知りたいなっていう興味の方が強いんだけど⋯⋯」
「そっか。⋯⋯そっかあ」

 私の言葉を噛み締めて落とし込むようにガモちゃんは言う。
 教室の喧騒とか、クーラーの風とか、窓から見える枯れた木とか、もうじきチャイムが鳴るであろう時計の針も、ガモちゃんの中には無いんじゃないかなとすら思えた。

「わたしはね」
「う、うん」
「もう一度、ちゃんと佐久早くんに気持ちを伝えようと思うんだ」
「えっ」
「修学旅行の時、今度は誤解も嘘もなにもない状態で、全部自分の気持ちをさらけ出そうって」
「そ、そっか⋯⋯」

 予想だにしていなかったガモちゃんのカミングアウトに私は二の句が継げない。

「あ、違うよ? わたしが佐久早くんと付き合いたいとかじゃなくて、ただ伝えたいだけなんだ」
「伝えたい、だけ⋯⋯」
「誤解されてるままだしさ、でも佐久早くんはわたしのこと好きにならないってわかるから」
「それは⋯⋯でも、わからないよね?」

 窺うように尋ねる。ガモちゃんの表情には悲しさも苦しさも戸惑いもない。むしろどこか清々しささえ感じる。

「わかるよ。好きだからわかる。佐久早くんはわたしを好きにならない」

 ああ、でもちょっとだけ切なそう。だけどはっきりと断言するガモちゃんはいつも以上に凛々しくてかっこいいとすら思った。

「だから名前ちゃんはわたしのこと気にしないで。もっと好きになっても好きじゃなくなっても、わたしは変わらないよ」
「ガモちゃん⋯⋯」

 パリッと軽快な音がして、開けられたお菓子がようやくガモちゃんの口に運ばれる。同時にチャイムが鳴って席に戻ったけれど、私はそうやって言いきれるガモちゃんが羨ましかった。

(20.10.30)

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