試合前のロッカー室内は騒がしい。主に木っくんがおるから。それは今日も変わらへん。臣くんは無口やし、翔陽くんは楽しそうやし、俺は今日の試合がムスビィの本拠地大阪やからバス移動も短かくて調子がええ。
ロッカーの扉の内側についている鏡には、隣におる臣くんの顔が映る。なんの気無しにその表情を見て、俺は一緒、幻を見たとさえ思た。
やって、臣くんがめっちゃ楽しそうにしとる。
どしたん? 昨日なんかええことあったん? それとも今日ええことあるん? いや、それよりも明日空から槍が降ってこんやろか。
そう考えるくらいには臣くんから幸せオーラみたいなもんが溢れとった。
「臣くん、今日なんやむっちゃ嬉しそうやん」
「は?」
「怖! 俺が話しかけてたら急に眉間に皺寄せんの止めてや!」
「別になにもない」
嘘やん。絶対になんかあるやん。やって臣くん試合前にそんなにスマホ触らんやん!!
ロッカー室の真ん中で騒いでいる木っくんを鬱陶しげに見つめてる臣くんの顔を盗み見る。
「またまた〜。俺にはわかるで。臣くん今日なんかええことあるんやろ? あ、明日か! 明日ええことあるんか!」
「⋯⋯あったとしても言わない」
「なんっでや! チームメイトとしてのコミュニケーションは!?」
信じられへん。絶望を表現してみても、臣くんは何も声をかけてはくれへん。ほんま悲しい。切ない。まあええけどな。臣くんやし。
タイミング良く画面が光って、大きなポップアップが表情される。アカンとはわかっとったけど、好奇心と反射が働いて俺の目は臣くんのスマホの画面に注がれた。やってちょうど見やすい位置にあるんやもん。盗み見防止シートも張ってないんやもん。
『聖臣くん! これから会場向かうね。めちゃくちゃ応援するから! 久しぶりに会えるのも楽しみにしてる! 大好き!』
えっなんなん。大好きの後にハートマークついとるやん。⋯⋯彼女か?
びっくりして、マクスをする臣くんの横顔を見る。ああこれは彼女やな、と確信した。そうやなかったらマスクしてても分かるくらい目元緩ませへんやろ。眉毛の下がり方には愛が感じられて、あの臣くんでも好きな女の子相手やったらそんな風になるんやなと妙な感動すら覚えた。
「名前なんて言うん?」
「オイ⋯⋯まさか、見たのか」
「⋯⋯見えたんや。見えてしもたんや⋯⋯」
「絶対に言わない」
「ええやん! 教えてやそんくらい! 減るもんやないやろ!」
「減る。汚れる」
「お、臣くん、俺のことなんやと思っとんの⋯⋯?」
わざとらしく傷付いた様子を見せる俺に、臣くんは一瞥をくれるだけやった。え、ほんまに俺のことなんやと思っとんの⋯⋯?
「彼女が応援しにきとるんなら今日の臣くんはイケイケやな〜」
「いてもいなくてもやることはやる」
「やけど彼女にはかっこええとこ見せたいやん? 見せたくないん?」
「別に見せなくてもいい」
そう言い切った臣くんの顔を、今度は堂々と見た。え、見せなくてもええの? 俺やったら好きな子にはかっこええとこ見せておきたいけど。勝ったとこ見せたいんやけど。
なんで? と思う気持ちがこもった俺の目に耐えられなくなったんか、臣くんは1度ため息を吐いてから、マスクの中で口籠るように言う。
「⋯⋯試合に勝って格好良いと思ってもらえたら良いとは思うけど、俺にとってはコイツが、テレビでも会場でも俺の試合を見てくれてるってことが重要」
えっ臣くん、彼女のことむっちゃ好きやん。いや、そうやろうな。あの臣くんがこんな幸せそうにやりとりするくらいなんやからむっちゃ好きやろうな。
「⋯⋯ええなぁ」
「は?」
「怖! なんで俺にはそんな顔なん!? 彼女に向ける優しさの半分くらい俺に向けてくれてもええやん!?」
「意味がわからねぇ」
面倒くさそうにそう言って、臣くんは先程のメッセージに返信をする。
『俺も』
入力をしながら「見るなよ」と言われ「わかっとる」と答えはしたものの、すまん臣くん。また見てしもた。返信全部読んでしもた。好奇心と反射を抑えきれんやった。大好きは打たへんのやな臣くんは。ああ、あれか。このあと会ったとき直接言うとかそんなんか。
あの臣くんが、ファン感でさえ塩対応の臣くんがこんな風に柔らかくなるんて、彼女どんな子なんやろ。発酵調味料みたいな子なんか。そもそも臣くんどんな恋愛してきたんやろ。さすがにこれ聞くんは気持ち悪いか。恋バナしたいわけでもないしな。
まあええか。臣くんは臣くんで幸せな恋をしとる。これ以上俺が口出しして怒らせたらアカンしな。
「おい」
「なん?」
「絶対に会場内で探すなよ」
それ言われたら探したくなるやつやん。
(20.12.10 / 60万打企画リクエスト)