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 デパートの地下にある美味しそうなスイーツを買ってニースたちの家へと急ぐ。美味しそうな食べ物がデパ地下に集まるのは万国共通なのかな、なんてくだらない話をしながら地下鉄に乗ってまだほんのりと明るさが残る空の下、クリスマスの飾り付けで賑わう駅の前はいつも以上に陽気な空気で満たされていた。
 ただでさえ陽気な人が多いブラジルだから、こんな風にイベントがあれば笑っちゃうくらいに街は盛り上がる。

「荷物少し持つよ。翔陽持ってる量多いし」
「ん? あ、俺なら平気」
「これだと私が翔陽に持たせてるみたいじゃない?」
「でも全然重くないし! なんなら今名前が持ってんのも持てるし!」

 ニース達に買ったプレゼントは決して軽いとは言えないのに私と翔陽じゃ重いの基準が違うのかもしれない。重そうだなと思って声をかけてはみたけれど翔陽は平然と、むしろどこか楽しそうにそう答えた。
 自分のバッグと、水平に持たなくちゃいけないスイーツだけしか手にしてない私のほうこそ流石にこれ以上翔陽に持ってもらうわけにはいかない。そうなることはないだろうなとわかっていながら定型文のような返答をする。

「じゃあ重たくなったら言ってね。私も少し持つから」

 その中にある私宛のプレゼントは一体どんなものなのか。数時間後にわかるとは言え、好きな相手からもらうのだと考えるとこんな時でも気になって仕方がなかった。

「翔陽が選んだプレゼント気になる」
「多分⋯⋯変なものは買ってない⋯⋯はず」

 先程まで楽しげだった翔陽の顔に突如不安の影が過る。

「多分なんだ?」
「いや名前の好みに合うように選んだけど! でも俺よく考えたら女の子にこんな風にプレゼントあげたことないから外してる可能性もあるな〜って⋯⋯」

 大丈夫だよ。翔陽からもらえるプレゼントはもれなく全力で嬉しくなるから。徐々に言葉尻が小さくなる翔陽につい口角があがる。可愛いって言ったら多分良くないだろうけど、今の翔陽は可愛い。
 まずいな。私はもうすでにクリスマスの魔法にかけられているかもしれない。終わるまでは解けないでと願うくらいはきっと許されるはず。好きな人と過ごせるクリスマスなんだから、それくらいは。

「楽しみだな〜。何もらえるんだろうな〜。きっとセンスの良いものなんだろうな〜」
「ハードル!」

 ニースとエイトールの住むマンションまではあと少し。それまであと少しだけふたりだけの時間を重ねるのだ。クリスマスのイルミネーションが光る路上で。


#  #  #


「ふたりともいらっしゃい! 待ってたわ」

 私をハグで出迎えたのはニースだった。いつもよりも熱烈な歓迎にニースの気持ちも高まっているのがわかる。エイトールとも軽いハグを交わして、私と翔陽は2人の家に足を踏み入れた。

「ナマエ、それこの前買った服よね?」
「そう。ニースと一緒に買い物したときの」
「かわいいわ。似合ってる」
「ニースも。今日はいつもよりエレガンスな雰囲気だね」
「せっかくのクリスマスだもの」

 テーブルの上にはすでにいくつかの料理が並べられてあって、エイトールが誇らしげに「ニースの料理は美味いからな。俺も少しは手伝ったから期待してくれ」と言う。
 微笑ましさを感じながらも、ふたりが朝から色々準備をしてくれたことが想像できてもうすでにちょっと胸がいっぱいだ。ニースに誘われなければ1人でクリスマスを過ごす事になるだろうと思っていたから余計に。

「もうすぐチキンのグリル焼きが出来上がるから先に乾杯しましょ」
「あ、私達もスイーツ持ってきたんだ。手土産として受け取って」

 それこそ、この前ニースとでかけたときにここのケーキおしゃれだし美味しそうだよねと言っていたお店のものだ。外装でそれがわかったのか、ニースの瞳が輝く。

「嬉しいわ、ありがとう!」
「ニースも料理たくさん準備してくれてありがとう」
「ホストだもの、当たり前よ」
「でも朝から大変だったんじゃない? 飾り付けも凄いよ」
「飾り付けはほとんどエイトールがやってくれたの」
「エイトール凄い」

 子供の頃、友達の誕生日パーティーに招かれた時の記憶が蘇る。ドキドキしたりワクワクしたりするあの感じ。クリスマスというほんの少しの非日常が私に高揚感をもたらす。
 クーラーがついていても半袖でもクリスマスはクリスマスだ。

「さあ、パーティーをはじめましょう!」

 ホストであるニースの言葉でクリスマスの夜は幕を開けた。

(21.04.16)


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