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 登校して真っ先に目に入った孤爪くんの髪の毛の色に私は思わず口を開けた。だって金色だよ。昨日まで真っ黒だったのに昨日の夜、何があったのと私はその頭をまじまじと見つめた。まだ新学期が始まってそんなに時間も経っていないのにインパクトが大きすぎると思いながら、その件についてふれないなんてこと私には出来なかった。

「孤爪くん、髪の色めちゃくちゃ綺麗だね! 印象全然変わったからビックリしちゃったよ。でもすっごく似合ってるし、きっとどこにいても孤爪くんのこと見つけられる気がする」

 私としては誉め言葉だったんだけど、孤爪くんにとってはそうではなかったらしい。詳しく話を聞くと、髪を染めたのは目立ちたくないからみたいで、私の「どこにいても孤爪くんを見つけられる」という言葉に分かりやすく落ち込む様子をみせた。
 でもどう考えたってその髪の色は目立つよと言えるわけもなく、孤爪くんのその様子に私は言ってはいけないことを言ってしまったのだと反省した。

「こ、孤爪くん。ごめんね。私、誉め言葉のつもりだったんだけど傷付けちゃった⋯⋯? でも本当にいいなあと思ったし何なら前の孤爪くんよりいいねって感じだし、いや前の孤爪くんが駄目とかじゃないんだけど⋯⋯!」
「⋯⋯どうも」

 自分で自分をフォローしたけれど、孤爪くんに私の言葉は届いただろうか。漂う悲壮感と眩しいくらいの髪の毛。

「⋯⋯そんなにこれ、目立つ?」
「えっ」

 あ、これ目立つとは言えないやつだ。

「あの⋯⋯その、原宿とか渋谷あたりなら目立たないと思う」

 考えて考えて出した答えがそれだった。だってそんな髪の毛⋯⋯あ、山本くんの隣ならあんまり目立たないんじゃない? と思ったけれどこれ以上孤爪くんにかける言葉が見つからなくて結局私は何も言えなかった。はい、失言。こんな形で会話が終わるなんて悲しすぎる。


△  ▼  △

 
 学生というものは面倒なもので、どんなに嫌でも何かしらの役割を課せられてしまう。それが新学期最初に来る委員会決めだ。私はこれが本当に嫌で嫌で、先生の「さて」の言葉でそれが何を指すのか分かるようになってしまったくらいだ。来たぞ、と。いよいよあの時間が来たぞ、と。

「最初に希望とるから黒板に名前書いてくれ」

 クラス委員長、副委員をはじめとし、体育委員、学校祭実行委員、図書委員、など定番の委員会が名を連ねている。一番楽な委員会はもちろんじゃんけん大会が開催されるだろうし、じゃんけん運のない私は安全圏の回避できる穴場の委員会を探した。

「名前ちゃんどこにするか決めた?」
「全然決められない。楽なのは倍率高そうだし」
「部活あるとキツいのもあるしね」
「私じゃんけん運ないからドキドキする⋯⋯」
「選挙管理委員会とか人気だよね。期間限定だし」
「風紀と美化はめんどくさそうだよね。あ、そっか。今年は修学旅行委員もあるんだね。なんでこんなにあるの⋯⋯」
「名前ちゃんよっぽどめんどくさいの嫌なんだね」

 前の席の女の子がそう言って笑ったところで私は決意する。うん、決めた。戦場に向かうくらいの気持ちで私は決意を固めて黒板に名前を書いた。


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 結果から言えば、私の今年の委員会は修学旅行委員会だ。出来れば避けたかった委員会に所属することになってしまって、私は愕然とする。予想通りじゃんけんに負けた結果がこれなんて、誰を憎めばよいのかもわからない。

「修学旅行委員は男女一人ずつだもんね、もう一人は誰になるんだろ」
「もう誰でもいい⋯⋯」
「えっ名前ちゃんやさぐれないで。ほら、行き先決めたりできるんだよ?」
「希望通らなかったら文句言う人絶対にいるよ⋯⋯。話聞かない人とかいるし、そもそも私教壇の前に立つの好きじゃないし⋯⋯うう、緊張してきた⋯⋯」
「ねえ考えすぎないで?」

 不安なことしか考えられない私に、その子は励ましの言葉をくれる。そしてその間に私の相棒が決まった。誰、と黒板に書かれた名前を見る。

「え⋯⋯」
「あ、お隣同士だね」

 驚きながら顔を横に向けた。

「⋯⋯よろしく」

 またお前か、と言いたげな顔が私を見る。はい、また私です。すみません。どうやら本当に孤爪くんとは縁があるようだ。
 気だるそうに言う孤爪くんに、私も「よろしくお願いします」と返すのが精一杯だった。

(15.09.30)