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『告白したの!?』
「うん。まあ、はい」

 1人でこの感情を持つ自信がなかった私は、その日の夜、ゴンちゃんに連絡を入れた。ゴンちゃんは驚いて、喜んでくれた。よく言えたねって。

「孤爪んのね、ふわって笑った顔みたらね、あ。言える。言わなくちゃって思ったんだ。こう……好きが止まらなかった!」
『なにそれ。歌詞か』
「孤爪くん、ちょっと戸惑ってたし、答えを聞けるなら知りたかったけど、言うのが一番の目的だったから答えは聞かなかった。……聞くのが怖いって言うのもあったんだけど」
『わかるよ。本人を目の前にして言えるのが凄い』
「孤爪くんにとって私は友達でも、いつかは好きな人になれるかもしれない! それまでは長期戦のつもりで私、頑張るんだ」

 そこには少し、強がりみたいなものもあった。だけどそれよりも、孤爪くんに言えたという自信があった。彼がどう受け取って、どう考えているのか、それは私がいくら考えてもわかるものじゃないから、考えないようにすることにした。考えて落ち込むくらいなら、考えずに笑顔でいる方がいい気がしたから。まあ、考えないっていうのは難しいけど、女は笑顔って雑誌にも書いてたし。

「いやでも凄く緊張した」
『だろうね』
「緊張したけど、なんか気持ちも落ち着いたし、明日から孤爪くんと普通に話せる気がする! まあテストあるし終われば夏休みだから話せる機会はしばらく減るけどさ……」
『そっかー。ま、なんにせよ安心したよ。いつもの元気な名前ちゃん復活って感じで』

 ゴンちゃんの偽りのない言葉にこっちが安心する。孤爪くんのことを考えると、まあ、少しは複雑だけど、今はいいのだ。


△  ▼  △


 それから、テストということもあって私と孤爪くんが二人きりで話すことはなかった。それでもたまに、試験の時間が余って孤爪くんはどうかな、なんて思って彼の方を見たとき、一瞬だけ交差する視線が、幸せで嬉しくて、でもちょっと物足りなかったりもした。しかし、私たちは告白からこれと言っての進展を見せることはなかった。それでもまあ、孤爪くんと普通に話せるようになったのは良かったとする。
 そんな日々と、テストという名の戦争が終わり、明後日から晴れて夏休みだ、という日の放課後、廊下で黒尾先輩と出くわした。思わず身構えた私に黒尾先輩は「え、何で俺警戒されてんの?」と言われたので、確かにな。と思い黒尾先輩に謝る。そのまま横を過ぎようと思ったけれど、この人にもお世話になったので、一応報告として言った方がいいのかなと思い黒尾先輩を引き留めた。

「あの私、孤爪くんに、その……こ、告白したんで、一応、黒尾先輩にも色々と話を聞いてもらったので、ありがとうございました」

 孤爪くんから聞いてるのかどうかはわからないけれど、黒尾先輩は私の言葉に満足そうな顔をした。

「研磨はなんて?」
「あ、いや、それは聞いてない、です。私言い逃げみたいに告白したんで、多分、孤爪くん驚いたんだろうなって思うんですけど、ちゃんと言えたことで満足しちゃって」
「え。付き合いたいとか思わないの?」
「それは、その……付き合えたら幸せだなあって思うんですけど、一番は、えっと……孤爪くんと一緒にいて話できたり、孤爪くんが私と一緒にいて楽しいなぁって思ってくれるのがいいんで」
「今時の女子高生とは思えないくらい無欲なんだけど」
「そんなことないですよ! そりゃあ付き合えたら物凄く嬉しいですけど! でも、なんていうか、これ以上望んだら、欲張りかなぁって」
「欲張り?」
「孤爪くん、多分こういうの得意じゃないと思うし、いや私も得意じゃないんですけど、ただ、その、私の言葉で孤爪くんに負担かけるのだけは嫌だなって思うんです。だから、長期戦で頑張ってやろうって今は思います」

 黒尾先輩はやはり、満足そうだった。なぜそんな顔をするのか私には全くわからなかったけれど。


△  ▼  △


 その日の夜、孤爪くんから連絡があった。

『遅くにごめん。今、名字さんの家の近くの公園にいるんだけど、伝いたいことがあるから、来て欲しい』

 私は驚いて、戸惑って、だけど少し期待して、すぐに返事をした。コンビニに行ってくると親に言い家を出る。夏の風を切って小走りに公園へ向かった。街灯の下のベンチに座る孤爪くんを見つけた瞬間、私の鼓動が高鳴った。「孤爪くん!」その声は夏の夜に溶けて、彼に届く。真っ直ぐな孤爪くんの瞳が私に向かっていた。

(15.12.08)