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 どちらかと言えば人見知りではないと思う。初めてあった人にも割りと気軽に声をかけられるし、人前に出てもそれほど緊張はしないし。だけど、まあ、なんというか。いきなり自分の彼氏と、その部活の仲間がバイト先にやって来たらさすがにどう対処したら良いのかは迷う。あれ、これ前にも似たようなことなかったっけ? 孤爪くんと、その隣に並ぶ背の高い男の子を見ながら思った。

「孤爪くん、と……」

 確かこの人はバレー部の……名前は全然出てこないけれど。そんな事を考えつつも、その背の高さに開いた口が塞がらない。世の中には背の高い男の子はいるけれど、いざ目の前にしたらこんなに見上げることになるんだなぁ、と間抜けなことを思っていた。背の高い男の子は目を輝かせて私を見つめる。

「研磨さんの! 彼女さんですか!?」
「え?」
「リエーフちょっと黙って」

 孤爪くんの素早い反応と、リエーフと呼ばれた男の子の質問に私は相変わらず間抜け面のままだった。え、どういうこと? 戸惑いよりも驚きが勝っている私に事の詳細を教えてくれたのは孤爪くんだった。

「今、部活の帰りで、何か買って帰ろうってことになったんだけど、クロがどうせなら名字さんのバイト先に行こうって言ってきて、俺は嫌だって答えたんだけど、リエーフが食いついてきて……あ、リエーフって俺の隣にいるやつなんだけど、それで……ごめん」

 孤爪は申し訳なさそうに、気まずそうに謝罪した。反対にリエーフくんの目は輝いたままだ。純粋な瞳に思わず私がたじろいでしまう。

「そうなんだ。そんなに気にしないで? 孤爪くんが悪い訳じゃなんだし」
 
 それにほら、顔見れたの嬉しいし。と思ったけれどそれはさすがに恥ずかしいので口が裂けても言えない。

「……一応、他の人には中に入らないでってお願いしたから」

 レジに置かれたたくさんのアイスを見て納得した。ああ、そっか、外に黒尾先輩をはじめとするバレー部の人たちがいるのか。さすがに団体で入られると私としても困るし孤爪くんの気遣いに感謝だ。レジうちを済ませて、孤爪くんにおつりを返す。

「部活、お疲れさま」
「うん……。また夜、連絡する」

 きゅん。心臓が握りつぶされるんじゃないかこれ、ってくらいには孤爪くんにきゅんきゅんしている。私達のやり取りを聞いていたリエーフくんが「おお! おお、研磨さんが……!」とよく分からない感嘆の声をあげている。それをまた直ぐに制した孤爪くんに私は笑みをこぼす。これは多分、私には見せない一面だなぁと思う。そう考えると、部活仲間というポジションが少し羨ましく思えるけど、いいのだ。私には私にしか知らない孤爪くんの一面があるはずだから。
 孤爪くんとリエーフくんに手を振って、二人はコンビニを出ていく。これだけのことなのに、ラストまでお仕事頑張るぞ、と思えるから恋は凄い。いや、孤爪くんは凄い。


△  ▼  △


 その夜、孤爪くんの言葉通り、彼から連絡が入った。お風呂上がりに携帯を開いて孤爪くんからのメッセージを読む。『夕方は、ごめん』……律儀である。『大丈夫だよ! 気にしないで!』と返事をすると、しばらく経った後『でも、顔を見れてよかった』と返ってきた。絵文字もなにもない素っ気ない文なのに、何だろうこの破壊力は。
 私の手は思わずスクリーンショットと言う行動を選んだ。顔を見れてよかった。この一言が孤爪くんの言葉で繰り返される。孤爪くんは私に、私は予想もつかないこと言ったりやったりするから驚くって言ったけど、それは孤爪くんもだと思う。孤爪くんだって、今みたいに私の予想しないこと、言ったりやったりするじゃん。嬉しくて、でも何故か苦しくて、私はただただ画面を見つめる。

『明日から合宿だから、今日は早く寝るかな。ごめん』

 続けざまに来た孤爪くんのメッセージに私は思い出す。ああ、そうだ。そういえば、孤爪くんは明日から埼玉で合宿だった。事前に孤爪くんからめんどくさそうな顔と声で、夏休み入って直ぐに合宿があるとは聞いていたけれど、本当に夏休みすぐに行くんだなと驚いた。私は所謂、強豪と呼ばれる場所で部活動をしたことがないから、孤爪くんのスケジュールには頭の下がる思いだった。お疲れさまです、としか言えない。だから、孤爪くんがごめん。と謝っても私は会えないことを責めようとは思えないしむしろ謝らないでと思うのだ。

『1週間だもんね。体調に気を付けて頑張ってね! いってらっしゃい!』

 そういえば、春に孤爪くんが宮城に合宿に行ったときは、まさか付き合うことになるなんて夢にも思わなかったなぁ。人生って何が起こるかわからないものだ。そんなことをつらつらと考えていると眠気が襲ってくる。ああ、電気を消さなくちゃ。その前に携帯を充電しないと。孤爪くんももう眠るのかな。重たい瞼に私は逆らえない。『おやすみ、名字さん』そのメッセージを読むのは朝日が昇ってからのことである。

(16.01.11)