06


「孤爪くんと仲良いよね」
「……そう?」

 それはお昼休みに食堂でゴンちゃんとご飯を食べているときの一言だった。生徒の賑わいに私たちの声は簡単に消されてしまうけれど、その言葉は真っ直ぐに私の元に届いた。

「1年のとき同じクラスなの?」
「一応。でも去年は私、出席番号前のほうで孤爪くんと話すとかはそんななかったなぁ」
「前から仲良いのかと思ってた」
「仲良いかな?」
「私にはそう見えるけど」
「友達だしね」
「名前ちゃんは友達作るの上手そう」
「えー、そうかな? 結構人見知りだよ? でも孤爪くんのほうが人見知りそうだから話しかけやすいのかも、なんか面白いし」

 そうなの? とゴンちゃんが笑いながら言う。確かに2年に上がってから孤爪くんと接する機会は増えたけど、孤爪くんは私のことを友達とは思ってなさそうだなぁ。心の壁、分厚そうだし。

「名前ちゃん、孤爪くんみたいな男の子がタイプなのかなって思ってた」
「ええ! なにその爆弾発言!」
「いいじゃん。彼氏ほしくないの?」
「欲しいか欲しくないかなら欲しいけど、まずは好きな人が欲しいって感じ」

 ゴンちゃんは、というより多分、この年代の女の子は多分恋に結び付けるのが好きなのだ。現に私だって、こうやって恋のあれこれを話すのは楽しいし。孤爪くんには申し訳ないけれど、女子高生という生き物はこんなものである。
 ゴンちゃんの言葉に孤爪くんのことを思い出すけれど、恋かと聞かれれば少し違う気もする。楽しいとは思うけれど、ドキドキしたりするわけでもないし。そもそも好きな人って、どうやって作るんだっけ。

「やばい。恋の仕方忘れた」
「いやいや、それは」
「きゅんきゅんしたら思い出せるかな」
「壁ドンとか?」
「顎クイとか?」
「部活終わるの待ったりとかね」
「勉強教えてもらったりとかも」
「あー、いいね! 年上の先輩とかいい!」
「……とりあえず少女漫画読むね」
「いいのあったら貸す」

 結局、実のない話で私たちのお昼ごはんは終わった。そう、これが女子高生だ。だけど、その話を思い出した私は教室に戻って隣の席の孤爪くんをちらりと見てみる。うーん、そうか。孤爪くんが彼氏だったら、かぁ。休みの日はゲーム? インドア派っぽいよね? 孤爪くんと付き合ったら……いやなんか想像出来ない。何が想像出来ないって孤爪くんに彼女がいることだよね。孤爪くんが彼女を愛でることだよね。お昼休みにゲームしてる孤爪くんが、彼女と一緒にお昼食べたりするのかな? 孤爪くんの部活終わるの待ってたり一緒に帰ったりとかするの? えー、うーん……。

「私、実はまだまだ孤爪くんのこと知らないかもしれない」
「え、なに」
「……いや、なんとなく」
「急に怖いんだけど」
「あ、ごめん」

 孤爪くんは少しだけ訝しげて私に言う。ごめんね、孤爪くん。孤爪くんで恋の妄想をしていただなんて口が裂けても絶対に言えない。ははは、と誤魔化すように笑って孤爪くんの手元のゲームに視線を向けた。「clear」の文字が浮かんだそれに私は「あ、クリアおめでとう」と言う。

「……新作だし、やりこんだから」
「新作クリアしたの?」
「まあ、一応」
「あ、だからか。ここ最近休み時間にいつもゲームしてたのって。新しいのってついつい止めれないよね」

 猫みたいな孤爪くんの眼がじいっと食い入るように私を見つめた。

「ごめん、変なこと言ったかな」
「……前から思ってたけど、名字さんて変わってるよね」
「え、どこが?」
「……言わない」

 ふいっと孤爪くんが前を向く。え、ええ! んん? なんだそれ! 言い逃げ? 私との会話はもう終わりですの意をオーラで表現している孤爪くんに、これ以上話しかけられる術を私は知らない。仕方ない、と次の授業の教科書を持ってくるため、私は廊下にあるロッカーに向かいながらモヤモヤと思う。なんで今、そんなこと言ってきたの……? 孤爪くんの背中は何も語らない。
 ゴンちゃん、孤爪くんの考えていることって難しいっぽいです。

(15.10.06)