結婚祝いを選びに行く話


 駅前の並木通りがライトアップされるようになった。街中に流れるメロディーも変わり、仲良く手を繋ぐ人達も増えている気がする。

「悪い、待たせた」
「ううん。全然待ってない」
「んじゃ行くか」

 12月頭、金曜日の夜。黒尾がマフラーを巻いているのを見て、そろそろそういう季節がやってくるのかと納得した。

「リクエスト、聞いてくれたんだよな?」
「うん。この中のどれかだったら嬉しいって言ってたから実際に見て決めようかなって」

 私と黒尾が街へ繰り出していた理由は結婚祝いを買いに行くためだった。私と同じ部署の仲の良い先輩と、黒尾の直属の上司の職場結婚。本来は私が結婚祝いを買いに行く予定だったけれど、周りから「同じ部署だし同期同士で行けばいいんじゃない?」と声が挙がったため、こうして2人で家電量販店へ足を運ぶことになったのだ。
 先輩から事前に欲しい物の候補を聞いていたものの、中は1人で運ぶには重いものもあったので正直、黒尾がいてくれて助かった。それに2人で選んだとなるとセンスが悪かったとしても責任は半分だし。

「今日、人多いよね」
「そりゃあ師走の金曜の夜だし人も増えるだろ」
「カップルっぽい組み合わせも多いわけだ」
「俺たちもそう見られてるかもな」

 クリスマスは好きな人と過ごすんだとワクワクした日は遠い昔だ。
 今年も、私も黒尾もクリスマスには縁が無さそうだと思っていたけれど、こうして歩いていれば確かにそう見られてもおかしくないんだよなぁと不思議な気分になる。

「なんなら手でも繋いどく?」

 黒尾はニヤリと笑い、手のひらを差し出した。
 何をもってして「なんなら」になるのか分からないけれど、繋ぐ理由もないのでハイタッチするようにパチンと叩く。

「つなぎませーん」
「残念」

 全然言葉通りの顔をしていない黒尾を見ると、でももしそのまま手を繋いだら黒尾はどんな反応をしたのかなと好奇心が浮かび上がる。
 手のひらが引っ込められてしまった今、どうすることも出来ないし、実際に手を繋ぐのはさすがにちょっと恥ずかしい気もするし、その好奇心はそっとしまうしかないんだけれど。

「今日はドラマリアタイしたいからサクッと買ってサクッと帰るの。ふざけてる場合じゃないの」
「前に面白いって言ってたやつ?」
「うん。そろそろ最終回近いんだ」
「最終回迎えたら配信で一気見するわ」
「そう言って本当に一気見した人まだ出会ったことないんだけど」

 そんな会話と共にたどり着いた家電量販店はやはり、たくさんの人で賑わっていた。より一層濃くなるクリスマス前のムード。リクエストのリストを確認しながら人混みをかき分けるように売り場を探す。

「2部署で合同だと予算も潤沢だし結構良いもの買えるよね」
「だな」
「高価なもの1つ選ぶならコーヒーメーカーかな? ケトルとブレンダーの2つを一緒に渡すのもありだと思うけど」
「メーカーの指定は?」
「そこらへんは任すよって言われてて」
「機能性とか実際の使い勝手も考慮したほうがいいよな」
「とりあえずすぐそこのコーヒーメーカーから見てみる?」
「そうするか」

 コーヒーメーカー売り場に移動した後もあーだこーだと悩んでいたせいか、声をかけてくれた店員さんが「こちらは同棲を始める方や新婚の方にも人気のモデルなんですよ」と教えてくれる。

「ご自宅用でお探しですか?」
「あ、いえ、結婚祝い用で……」
「そうだったんですね。仲良くお話されていので、つい」
「いえいえ」

 第三者に言われると、私達も『そう』見られていることを実感する。だからって何がどうってわけでもないけれど、そういう会話をした後だから意識しなくて良いことまで意識してしまう。

「ご予算はおいくらいでしょうか?」
「ええっと……」

 そんなことを思ったなんて顔に出さないようにして予算を伝え、店員さんを含む3人で議論をする。結果、難航することもなく潤沢な予算で買えるそこそこ良いコーヒーメーカーを買うことで落ち着いた。

「やっぱり黒尾に来てもらって助かった」
「結局配送してもらうことになったし、荷物持ちにもなってないけどな」
「でも1人だと決断が重い気がして多分もっと悩んでた――」
「名字」

 言葉を遮られると同時に呼ばれた名前。腕を掴まれて黒尾のほうへと体を引かれた。何事、と周りを見渡すと足元を小さな子供が走り去っていった。黒尾に言われなかったら視界に入らないままぶつかっていたかもしれない。

「ごめん、ありがと。全然見えてなかった」

 ニヤリ。黒尾は先程と同じ笑みを向けた。

「え、なにその笑みは」
「手、繋ぐことになったな?」 
「……これは繋ぐじゃなくて掴むでしょ」
「似たようなもんだろ」

 手のひらはそっと離れていく。掴むのも、離れるのも全部黒尾から。与えられた右腕の温もりはゆっくりと冷めていく。

「……全然違うよ」

 だけど、黒尾の大きな手のひらとちゃんと手を繋いだらどんな感じなんだろうと一瞬でも思ってしまったのは、12月と店内に流れるクリスマスソングのせい。

(24.09.23)
prev | back | next