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告白の作法があるならぜひ教えてほしい。孤爪くんと映画を見に行ってから早半月。私はいまだにこの気持ちを打ち明けられないでいる。
「じゃあまだ孤爪くんに好きって言えてないんだ?」
「うん」
とある週末、よっしーの家に泊まりに行った際に相談事として口にしたのは孤爪くんの事だった。孤爪くんに告白したいと思ってるとよっしーに打ち明けてからしばらく経っているのに、私がまだ気持ちを伝えていない事によっしーは驚きの色を見せる。
「名前ってば慎重派だぁ。やっぱりまだ振られた時のこと考えると怖い?」
「うーん……それはないって言うと嘘になるんだけど、それよりも気にしちゃう事があって」
なになに、とよっしーが顔を近づける。漂うヘアオイルの香り。
「孤爪くん、最近顔出し始めたんだけど反響良くって登録者数どんどん増えてるのね。なんかこのタイミングで告白したらなんていうか……肩書き目当てって感じしない? 有名だから好きになった、みたいな」
そう。分かっていたけれど孤爪くんの顔出しの反響は凄かった。どれほど凄かったかと言うと顔出しの動画を配信した直後に「KODZUKEN」の名がSNSのトレンド入りしたほど。
「あー、孤爪くんなんか凄いんだってね。サークルの人にもめっちゃ言われたもん! でも別にさぁ、名前は孤爪くんが凄いから好きになったわけじゃないでしょ?」
「うん。まあ出会いはコヅケンさんのほうが最初なんだけど」
「孤爪くんってそういうの気にする人?」
「……コヅケンさんだから孤爪くんと仲良くしてる訳じゃないっていうのは分かってくれてると思う」
「じゃあ良くない? てゆーか肩書き目当てって感じたら孤爪くんも一緒にゲームしよってならなさそうじゃん?」
「それはそうなんだけどさ」
でも、孤爪くんが凄くなれば凄くなるほど告白しにくくなるのは事実だ。言うなら早い方が良いはずなのに、コヅケンさんの人気ぶりにどうしても慄いてしまう。
「あたしゲームしないからあんまりよくわかんないけど、ゲームする人から見たら孤爪くんってそんなに凄いの?」
「凄いよ。やっぱりプロゲーマーは全然違うし、私とゲームで遊んでくれてるのが謎だなって今でも思うもん」
あれ、そういえば今日、孤爪くんがライブ配信する日じゃなかっただろうか。顔出し後初のライブ配信。
「今日、孤爪くんライブ配信の日かも」
「え! 見たい! 見よ見よ。せっかくだからタブレットで見よ」
よっしーは興味深々の様子でタブレット端末を手に取る。
「チャンネル名、KODZUKENチャンネルだよね? 小塚健一とか言って頃が懐かしい〜」
「あはは。そんな事もあったね」
タブレットに孤爪くんが映る。どんどん文字が流れてゆくチャット欄。孤爪くんだけど、今はコヅケンさんって感じ。
「視聴者数多いねぇ。それにスパチャの金額もすごぉい。確かにこれは告白するの勇気いるかも。もう一般人じゃない感じするもんね」
「わかる!? そうなの! 配信見ちゃうと孤爪くんが一般人って感じしなくて怖気付いちゃうんだよね……」
コメントを拾って返答をして、でも器用にゲームも進めてて。ゲームショウの話とか最近気になってるゲームの事とか、矢継ぎ早に話題を口にしているわけではないけれど配信をしているという状況のせいかいつもよりも饒舌に思える。
「あ、今スパチャで好きな人いますかって聞いてる人いた」
「え、うそ」
「赤色だし孤爪くん答えるんじゃない?」
誰、そんな質問した人! と思いつつも聞き耳を立てて、食い入るように画面を見つめてしまう。
『好きな人、いるよ』
「わぁ、好きな人いるって」
いないって答えるのかなって思ってた。彼女いないって言ってたし、その予定もないって言ってたし。
でも、そっか。好きな人はいる可能性あるのか。完全に盲点だった。ゲーム関係での交友関係は広いだろうし、実は仲良い女の子がいますとなってもおかしくはないんだ。
脈アリ、までは思ってなかったけど心のどこかでは自惚れていた気がする。孤爪くんは私だから一緒にゲームしてくれるんじゃないかって。孤爪くんなら本当にずっと一緒にゲームやってくれるんだろうって。そしてそういう関係を続けていたら、いつか孤爪くんも私の事を好きになる日がくるかもしれないって。
「聞かなきゃ良かった……。こんなの益々言えなくなる」
「んー……でもさぁ、これ名前の事かもしれないじゃん?」
「や、さすがにそれは自意識過剰じゃない?」
「自意識過剰くらいが丁度良いって。むしろこれで孤爪くんが名前の事好きじゃないってなったらあたし名前の良いところと彼女にするべき点をレポートにまとめて孤爪くんに送り付ける」
「よっしーのメンタル強すぎてゲームだったらボス前に戦う相手になりそう」
「なにそれウケる」
ちょっと心が軽くなる。
完全に自惚れることは出来ないけれど半分くらいそうだったらいいなって思うくらいは許されるかな。もしかしたらって期待するくらいは。
(23.09.17)