03

「ねぇ、弾余ってる?」
「ありますよ。結構持ってるので多めに渡しますね」

 充分数と思える数の弾を落してコヅケンさんに渡す。

「ありがと。助かる」
「いえいえ」

 コヅケンさんからパーティー申請が来たときは先日のよっしーの言葉を思い出して一瞬だけ申請を受けるかどうか迷ってしまったけれど、始まってみれば普段と変わりない様子で、私はどうしてもコヅケンさんがあの孤爪くんと同一人物だとは思えないままプレイを続けていた。
 この画面の向こう、限定スキンを操作するコヅケンさんは小塚健一なのか、それとも本当に孤爪研磨くんなのか。そんな馬鹿げたことを考えている合間にもコヅケンさんは敵の攻撃を華麗に交わして相手をダウンさせてゆく。

「ていうか今日なんか立ち回りぎこちないけどラグい?」
「あー……いや……」

 全然ラグくないです。快適な回線です。意識しないようにと意識していたことを悟ったのか、コヅケンさんが言う。
 同じ大学の同期なんじゃないかって疑ってました、なんて言えばコヅケンさんはどんな反応をするのだろう。
 建物の内部を物色しながら、もう近くに敵もいないことだしとコヅケンさんに質問を投げかける。

「……コヅケンさんって大学生ですか?」
「急だね」
「すいません、答えたくなかったら全然無視してくれて良いので」
「そうだけど」
「あっ、へぇ……」

 そうなんだ。私と一緒なんだ。
 意外にもすんなりと答えてくれるんだなぁと内心ほんの少しだけ驚いた。

「何その反応」
「や、答えてくれるとは思ってなかったんで」
「そっちから聞いたくせに?」
「それはそうなんですけど。だってほらコヅケンさん、配信者だって言ってたしそういう個人情報に繋がりそうな質問ってやっぱり答えられないかなぁって」

 コヅケンさんが「KODZUKENチャンネル」という名前で動画を配信していると聞いたのは最近の事。始動したばかりのチャンネルだと言っていたのに、コヅケンさんのゲームスキルの高さ故か私が確認した時には既に登録者数が10万人を超えるチャンネルとなっていた。
 驚嘆すると同時に漠然と想像が出来たのはコヅケンさんが有名実況者になる未来。他にYouTuberの知り合いはいないし何が動画を人気付けるのかも私は知らないけれど、多分、コヅケンさんみたいな人が人気実況者になっていくんだろうなぁと一瞬にして思ってしまった。30万人。50万人。100万人。そんな風に登録者数が増えて有名になったコヅケンさんは、いつか私とはゲームをしてくれなくなってしまうのだろうか。
 それを想像すると寂しくなって結局コヅケンさんの動画はそれ以来見ることはないままというのが実情だけど。

「なんでそんなこと突然知りたくなったわけ?」

 コヅケンさんが言うと同時にレア度の高い武器をゲットした。指が勝手に動いて武器を交換する合間に私は頭の中でどう伝えようかぐちゃぐちゃと迷う。
 孤爪くんの声の感じとか話し方とか思い起こそうとしたけれど、ほとんど話したことがないせいか全然思い出せない。それでもまあ孤爪くんなんてことはやっぱりありえないだろうと、私はそのままを口にした。

「実は同期生にコヅケンさんと同じ呼び方ができる名前の男の子がいるんですよ」
「ふぅん」
「だから友達がコヅケンさんは実はその人なんじゃないかって面白がって」
「それで、なんて返したの?」
「いやまさかでしょって言いましたよ。普通に同じ学校で同じ学部とかすごくないですか?」
「まあね」
「その子とはほとんど話したことないんですけどコヅケンさんとは雰囲気違うのは分かるし、でももしそうだったらどうなるのかなぁってちょっと考えてただけです」
「そっか」

 だけどコヅケンさんが否定も肯定もしなかった。そのせいで、そんなのあるはずないってわかっているはずなのに疑惑心が私に再び這い寄る。

「……え、違いますよね?」
「どうだろうね」
「コヅケンさん!」
「後ろから敵来てるよ」
「ちょ、な、どこ!? 足音あります!?」
「ウソ。冗談」
「コヅケンさん……!」

 孤爪くんもこんな風に笑ったりするんだろうか。それは全然想像つかないな。
 日本のどこかにいるコヅケンさん。それが例え小塚健一でも孤爪研磨くんだったとしても、今の私にとって一番大事なのは一緒に楽しくゲームをプレイする事。

「……コヅケンさん」
「なに?」
「有名人気ユーチューバーになってもたまには一緒にプレイしてくださいね……」
「急だね?」

 今度は微かに笑ってコヅケンさんは同じ言葉を言った。

「だってコヅケンさん最初から操作神がかってたけど一緒にプレイする度に上手になってるんでそのうち飽きられるかなーって」
「そっちが面白いままでいてくれるならね」
「私面白いプレイしてます? て言うか面白いままって難しくないですか? それ絶対飽きられるやつじゃないですかぁ……」
「そういうところが面白いと思うけど」

 ヘッドセット越しの声は今日も穏やかに私の耳に届くのだった。

(22.11.25)



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