06

「……あっ、へぇ………するんだ……」

 それでも私はどうにか言葉を紡いで会話を繋げた。再び浮上した『コヅケンさん=孤爪研磨くん』疑惑に心臓が忙しなく動くのがわかる。
 もし。
 もし、本当に孤爪くんがコヅケンさんなら。
 コヅケンさんとのこれまでのやりとりを思い出しながら、もしそうだったならどれだけ恥ずかしいだろうかと頭の隅の方で考える。私の事を知らない相手だからこそ出せていた部分だってある。そういう素の部分を知られていたのかもしれないと思うと今すぐこの場を立ち去りたくて仕方がなかった。
 いや、まだコヅケンさん=孤爪くんだと決まったわけではないけれど。まだコヅケンさん=小塚健一の可能性も残っているけれど!

「わ、私もよくゲームするんだけど」

 これは徐々に探りを入れていくしかない。私は孤爪くんの反応をじっと見つめた。

「うん。知ってる」
「えっ」

 ぎょっとして目を見張ると、そんな私の反応すらも楽しんでいるかのように孤爪くんは続けた。

「時々講堂内で話してるの聞こえてたから」
「あ……確かに。なるほど……」

 特段大きな声で話しているわけじゃないけれど小教室で講義があるときは孤爪くんが近くに座っていることもあるし、確かに私とよっしーの会話はその耳に簡単に届くかもしれない。

「ちなみに……孤爪くんはどんなゲームするの?」
「RPGとかアクションとか。時々スポーツ系とか人狼系とかも。あと、シューティングとか」
「シューティング……」
「最近はFPSよりTPSやってるかな。特にデュオ」

 瞬きを繰り返す。FPSは一人称視点のシューティングゲーム。TPSは三人称視点のシューティングゲーム。そして、私とコヅケンさんが一緒にやっているゲームはTPSのシューティングゲームだ。

「……あのさ」

 もしかして孤爪くんってコヅケンさんだったりする?
 そう聞いたらどんな反応が返ってくるのだろう。確信はない。だけど、限りなく黒に近い。これはいわゆる『女の勘』ってやつなんだと思う。

「コヅケンさん……?」

 控えめに、だけど意を決して恐る恐る尋ねる。

「うん。正解」

 満足そうな、余裕のある笑み。そう聞かれるのを待っていたのかとすら思える。
 正解。そう紡がれた孤爪くんの言葉を理解したものの、何からどう納得していけばいいのかまだ整理がつかなかった。
 つまり、今までのあれもこれもそれも全部、全部、相手は孤爪くん。

「いつ…………いつから知ってたの……!?」
「入学してすぐくらいかな。さっき言ったように講堂内で話してるの耳にしてからそうなのかなって思って、確信した」
「気付いたなら言ってくれればいいのに! め、めちゃくちゃ恥ずかしい……消えたい……」

 手のひらで顔を覆う。失言してなかっただろうか。余計な事話していないだろうか。そもそもアクティブユーザーが2億人近くいる中でこんな身近でマッチングすることある? まあアジアサーバーだし、ないとも言い切れないか。いや、だとしても。だとしても天文学的確率だと思うんだけど。

「名字さん、全然気づかないから面白くて」
「……面白い」

 私の反応に、孤爪くんは少し焦る様な色を見せた。

「ごめん。別に嫌な気持ちにさせたかったわけじゃない。言うかどうかは結構悩んだけど、俺もどう切り出すのが正解かわかんなかったし。でも名字さんと一緒にゲームして楽しいのは本当だから」

 ああ、こうして私の反応を見て謝ってくれたり本音を言ってくれると、孤爪くんはコヅケンさんなんだなって納得させられる。だってコヅケンさんは楽しそうに私をからかうことはあっても、嫌がる事を絶対にしない。

「……でも私、コヅケンさんと比べたらエイムぶれぶれだし、気抜いたらすぐダウンしちゃうし、よくポーション恵んでもらうし」

 ずっと思っていた。どうしてコヅケンさんは私なんかと一緒にパーティーを組んでくれるんだろうって。もっとうまい人と組んだ方が絶対いいのにって。
 でも、そっか。そういうことだったんだ。孤爪くんが私のことを知っていたから。同じ大学の、同じ学部の、同じ学科だったから。

「まあ確かに一緒に組んでトーナメントのトップ目指すとかは無理だろうけど、名字さんと一緒にパーティー組む時はそういうのが目的じゃないし。こっちが動きやすいように立ち回ってくれたりアイテム持ってくれたりするから俺はやりやすいと思ってたけど。あとはまあ……話しやすいから」
「え?」
「気を使わなくて良いって言うか、そっちがすごいラフな感じ出してくるからこっちも結構、気楽」

 言葉尻がほんのりと萎んで、孤爪くんはそっと私から視線をそらした。孤爪くん、そんな風に私の事を評価してくれてたんだ。不思議と今までの羞恥心とか不安感がスッと消えていって、コヅケンさんが孤爪くんで良かったなという感情だけが残った。
 まあ、もっと早く言ってくれればとは思うけど。
 けれど。

「じゃあ、これからも私と一緒にゲームしてくれる?」
「え……ああ、うん。名字さんが大丈夫なら俺は良いけど……」
「良かった。私もコヅケンさんと一緒にゲームするの楽しいし」

 孤爪くんは安堵するように少しだけ口角を上げた。画面の向こう側の表情をずっと想像していたけれど、こんな風に笑っていたんだね。

「あと」
「あと?」
「大学でも仲良くしてくれると嬉しい」

 コヅケンさん。もとい、孤爪研磨くん。同い年で東京に暮らす同じ学科の男の子。
 そして私の大切なゲーム友達。

(23.01.18)



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