じゅう!

「名字さん午前のテストどうだった?」
「微妙だった……赤点はさすがにないけど平均ギリギリかもしれない……」

 テスト期間中のお昼時、考えないようにしたってどうしても頭の中はその事ばかりになる。
 今だっていつものように白布くんと川西くんと学食でA定食を食べながら、つい先程終わった教科のテストの問題を思い出してはやっぱり答え違っていたかなぁ……なんて今更どうしようもない後悔を抱えている。

「俺も名字さんと一緒」
「よかった。仲間いた」

 こんなこと考えるのは良くないんだろうけれど、川西くんが私と同じ様子で良かった。白布くんは絶対こんな風に悩んだりしないだろうし。

「白布くんは? 手応えある感じ?」
「名字と太一よりはな。つーか普段から勉強してればいけるだろ」
「それ今1番言ってみたいセリフ第1位なんだけど」

 普段からコツコツ勉強をしている人だからこそ言えるセリフが白布くんらしさを物語っている。
 凄いよね、本当に。授業が終わったらバレーがあるし朝だって練習あるみたいだし。ていうか白布くん、ちゃんと寝てるのかな。見た感じ隈はないみたいだけど白布くんって妥協とかしなさそうだし。

「……白布くん、ちゃんと寝てね?」
「何の話だよ」
「白布くんの身体が心配だなって話」
「名字はそれよりも自分の心配しろよ。元素記号と化学式まだ全部覚えきれてないって昨日メールで泣きわめいてだろ」
「そうでした……」

 指摘され、行儀が悪いと理解しながらも要点がまとめられたプリントをテーブルに置く。あとお手製の単語帳も。白布くんほどの点数はとれないにせよ、少しでも点数は高くありたい。

「おお、名字さん凄いやる気」
「やっぱりギリギリまで諦めるわけにはいかないかなって」
「どちらかと言えば悪足掻きだけどな」
「白布くん!」

 ここぞとばかりに白布くんは私を見て鼻で‪笑う。
 悔しい。最近はちょっと白布くんの心に近づいてきたんじゃないかなって思う事も多かったけれど相変わらず白布くんは通常運転だ。

「……ていうか私泣きわめいてないからね? 泣き顔の絵文字添えただけだからね?」
「その前の文章がうるさかったから泣きわめいてると同じだろ」

 言い返せる言葉がないのもまた悔しいけれどこれ以上口論しても勝ち星は見えないなと、私は白布くんの言うところの悪足掻きを続ける。
 水平リーベと頭の中で紡ぎながら、クラークかの続きも誰か作ってくれないかななんて他力本願な事を願いながら。

「午後は化学で、明日は数学と英語だっけ?」
「そうだよ。川西くん、明日は余裕?」
「いや、勉強する時間足りなくてヤバい」
「今回範囲広いもんね」
「太一は色々言いながら毎回そこそこの点数とってんだろ」
「えっ川西くん仲間だと思っていたのにまさかの裏切り者?」
「違う違う。俺も毎回必死だから」

 ええ、本当かなぁ。ヤバいって言う人に限ってやばくない事多いしなぁと川西くんを疑いの目で見つめてみる。

「はは、疑惑の目」
「名字はせいぜい赤点にならないように気をつけろよ」

 なんか私だけバカみたいで落ち込むんだけど。わざとらしく項垂れてみても、白布くんは嘲笑するだけだ。

「先行く」
「え、白布くんもう行っちゃうの?」
「先生に呼ばれてるからな」
「そっか」

 そう言って席を立つ白布くんの後ろ姿を見送る。そうしてもう会話が届かないだろう距離まで白布くんが離れていった時、川西くんが言った。

「名字さん、賢二郎と随分仲良くなったね」
「ええ、そう?」
「そうでしょ」

 川西くんの間を置かぬ返答。私からすればまだ適当にあしらわれていると言うか、小馬鹿にされている感じなんだけど川西くんは私と白布くんの何を見てそう思ったんだろうか。

「そうかなぁ。だって結構当たり強いよ?」
「いや、だからって言うかさ。賢二郎が女子にあそこまでズバズバ言うの見たことないし」
「私のこと女子だと思ってないのかも」

 川西くんが‪笑う。
 別に白布くんに女の子扱いされなくてもいいし、変に気を使ってもらいたくないから現状に不満はないんだけど。いや、むしろ当たりが強くてもいいからもっと仲良くなって早く牛島先輩の連絡先を教えてもらわないと。

「それに牛島先輩の連絡先教えてくれる気配1ミリも感じられないし」
「まだ教えてもらってないの?」
「まだまだだね」
「まあ最終手段として俺もいるしさ」
「そこはもうめちゃくちゃ安心感です……!」
「賢二郎には怒られそうだけど」
「でも私思うんだよね」
「なにを?」
「逆に難攻不落だからこそ燃えるって言うか、最近は白布くんとの会話のテンポも掴めてきたしなんかこう、単純かもだけど、楽しいなって」

 きっと白布くんがここに居たら「俺は楽しくない」とかなんとか言うんだろうな。でもそういうのが想像できちゃうから楽しいんだよね。

「そっか」

 川西くんは緩く微笑むだけだった。

(24.07.26)