さん!

 それから何度か偶然を装って白布くんの隣でお昼を食べるという行為を繰り返した結果、私が隣にいても白布くんから文句や小言を言われる事はなくなった。
 恐らく受け入れたというよりも諦めたに近いと思うけど、そこについては触れないことにしている。
 今日も無事に週替り定食を購入し、白布くんの隣の席に座る。最近は話しかけても顔をしかめられることも少なくなったし調子は右肩上がりである。

「前から思ってたんだけど、白布くん食べる量意外と多いよね」
「別に普通だろ」

 でもそれ大盛りだよね……? とその体格からは想像できない量に驚く。白布くんって華奢じゃないけど体躯が良いって程でもないし、食は細いんじゃないかなって勝手に思い込んでいた。
 まあそうは言っても運動部だし、食べざかりの男子高校生にこれくらいのカロリーは必要なのかもしれない。でも白布くんにスイパラ行こうよって誘っても絶対に一緒には行ってくれないだろうな。

「ね〜今度一緒にスイパ……」
「行かねぇしそんな暇はない」
「まだ最後まで言ってないんですけど!」

 ダメ元だったけどやっぱりダメだった。最後まで言うことすらさせてもらえなかった。でもこれも想定内だと悲観することなく気を取り直して週替り定食を食べる。そもそもこうやって一緒にご飯を食べるようになっただけでも最初と比べたら十分な進歩だ。
 あ、もしかすると今なら勉強も教えてもらえるんじゃないだろうか。エビフライを咀嚼し、飲み込んで、よし! と気合を入れて口を開く。

「ね〜今度一緒に……」
「嫌だめんどくせぇ」
「断るのが早すぎる!」

 何するのかも言わせてくれないじゃん! と口を尖らせると、目の前の空いた席に一人の男子生徒が腰を下ろした。

「太一」

 と、白布くんが名前を呼ぶ。
 川西くんだ。親しくはないけど一年生の時にクラスが一緒だったから、ひととなりはなんとなく知っている。太一、と下の名前で呼ぶほど親しいことに驚いたけど、そういえば川西くんもバレー部だったと思い出した。

「意外な組み合わせだけど何繋がり?」
「ただのクラスメイト」
「友達!」

 私と白布くんの声が重なって、互いに顔を見合わせる。ここまで仲良くなってもまだ白布くんは友達だと認めてくれない。「と、も、だ、ち、です」と一音一音を区切り、改まるように口にすると川西くんが小さく笑いながら言った。

「認識の違いがかなりあるみたいだけど」
「こいつが勝手に言ってるだけだ」
「白布くんのケチ。最短距離で仲良くなろうよ」
「最短距離ってなんだよ。そもそもケチとかケチじゃないの話じゃないだろ」

 でも私だってすっかり白布くんの塩対応にも慣れたので。そりゃあ牛島先輩が卒業する前に連絡先を聞き出したいけれど、卒業後だってチャンスがないわけじゃないんだから、何を言われようと私はしぶとく白布くんにアタックするつもりだ。
 そこだけは白布くんにしっかり覚悟しておいてほしい。

「え、なに。名字さん、もしかして賢二郎の事好き、とか?」

 そんな私と白布くんを交互に見て、川西くんは言う。声を抑えて、躊躇いがちに発したのは念のため「そう」だった時の配慮なんだろうか。でもごめん。それは違うんだ。

「ううん」
「あれ、違うんだ。じゃあなんでこんな感じになってんの?」
「……牛島先輩がかっこいいから?」
「うん?」

 どういうこと、と言いたげな表情に私は事のあらましを伝える。
 バレー部の試合を観に行って牛島先輩に恋をしたこと。牛島先輩の連絡先が知りたくて白布くんと仲良くなろうとしている事。そして、白布くんのガードがとてつもなく固いことも。

「そういうわけで私は今、白布くんと仲良くなろうと努力してるの」

 全てを聞いた川西くんはお腹を抱えて笑いだした。心なしか目尻には涙がたまっているようにも見える。

「あーなるほど、それでこうなったってことか」
「川西くんからも白布くんに言ってあげてよ。素直に仲良くなりなさいって」
「だってさ、賢二郎」

 川西くんは白布くんのチームメイトだし味方になってもらえたら心強い。だけど川西くんの言葉に白布くんは一瞥をくれるだけだった。

「名字さんもまた随分と厄介な相手を選んだね」

 厄介な相手。
 それは牛島先輩のことなのか。それとも白布くんのことなのか。

「……確かに白布くんは厄介で手強いけど、優しいし、頭も良いし、運動神経も良いし、面白いなって思うよ」
「だってさ、賢二郎」
「……うるせぇ」

 白布くんは小さく言って、私から顔をそらすだけだった。

(23.02.02)