よん!

「待って、白布くん! 今から部活?」
「……部活は見学禁止だからついてくんなよ」

 放課後、部活へ行く前の白布くんを呼び止める。
 お前今度は何するつもりだ、とその瞳が言っている気がした。
 あのね、毎回私が突拍子もない事やると思ったら大間違いだよ白布くん。

「わかってる! じゃなくて、少し時間あるかなって」
「仕方ないから少しだけな」
「え、優しい……」
「うるせぇ。いいから要件言えよ」
「あ、はい。えっと、白布くんの連絡先を教えてほしいなって」
「連絡先?」
「まずは! 一旦! とりあえず!」

 これまでだったら聞いても断られそうだと思ったから聞かなかったけど、隣でお昼ご飯を食べても怒られない今、白布くんの連絡先なら教えてくれるに違いない。
 このまま無視されたらどうしようと思ったものの白布くんが立ち去る様子はない。あと一押しだと、両手を合わせて言葉を続ける。

「他言無用しないので! 何卒! それにほら、クラスメイトだし、お互いの連絡先知ってるほうが何かと便利でしょ?」
「例えば?」
「え……うーん……インフルエンザ流行ってて明日から学級閉鎖になるらしいよ、とか?」
「連絡網か」
「あとはえっと……いい感じのカフェがあったら教えてあげられる! スタバの新作の感想もすぐに伝えるよ!」
「SNSじゃねぇんだぞ」
「で、ですよね……」
 
 だって部活が休みの日教えてって言っても教えてくれそうにないし、牛島先輩の写真送ってってお願いしても送ってくれそうにないし、白布くんが返信してくれる内容なんてそれくらいしか思いつかない。
 プライベートの白布くんを知るにはやっぱり学校だけじゃ足りないと思うし、例えSNSや連絡網になってしまったとしても白布くんの連絡先は知っておきたい。

「まあ俺の連絡先くらいなら教えてやってもいいけど」
「え!?」

 あっさりとした物言いに拍子抜けする。いつもの白布くんはどこへいったの?

「なんだよ、その顔」
「だって半分くらいは教えてもらえない可能性あるかな〜って思ってたから……。本当に教えてくれるの? 後で削除しろって言っても削除しないからね?」
「あんまりしつこいと教えねぇぞ」
「すいませんでした……!」
「携帯出せよ」
「いやぁ、それが今日家に忘れてきちゃって……」
「……お前な」

 呆れたように言いながらも白布くんは鞄の中からルーズリーフとペンを取り出して、ほら、と連絡先を書いた紙を私に渡してくれた。

「おお……ついに白布くんの連絡先をゲットした……」

 並ぶ文字が神々しい。白布くんの連絡先がこんなにも神々しく思えるんだから、牛島先輩の連絡先はいったいどれほど神聖なものなんだろう。

「そんなに感動するほどのもんじゃないだろ」
「え、嬉しいよ。凄く」
 
 なかなか懐かない猫がはじめてすり寄ってきたような、なかなかお手を覚えない犬がようやくお手を覚えたような、そういう感覚。まあこれを口にしたらこの連絡先交換はなかったことになりそうなので絶対に口にはしないけど。

「ありがとう、白布くん」
「別に。それよりさっさと名字の連絡先も教えろよ」
「え、私の? 知りたいの?」
「知りたくねぇけど俺だけ伝えるの不平等だろ」

 白布くんにとっての不平等とは。
 元々聞かれずとも伝えるつもりだったから、白布くんのペンとルーズリーフを借りて自分の連絡先を記す。

「24時間年中無休で連絡受け取れますので!」
「ブラック企業かよ」

 白布くんはそれでも私の連絡先が書かれた紙を丁寧に折りたたんで、ちゃんと鞄の中にしまってくれた。
 今日の白布くん、やけに素直だしこのまま牛島先輩の連絡先も教えてくれるんじゃ……? と淡い期待が芽生えた矢先、私の心を見透かしたかのように言われる。

「まあ牛島さんの連絡先は何があろうと教えないけどな」
「一言余計なんですけど! そんなのまだわかんないじゃん! 私と白布くんが大親友になる可能性だってあるんですけど!」
「いや、ないだろ」

 白布くんは言いながら笑った。余裕を感じられる不敵な笑み。絶対にそんな未来はやってこないと断定出来るが故の表情。

「じゃあ今日の夜、連絡する」

 だから負けじと私も言った。

「しなくていい」
「なんで! するよ! せっかく連絡先交換できたんだもん、これまで以上に仲良くなろうよ!」
「断固拒否」

 白布くんは荷物を持ち直す。部活前に呼び止めてしまったのにちゃんと話を聞いてくれるところがなんやかんや白布くんの良いところなんだよね。

「部活前なのにごめんね」
「謝るくらいなら最初から呼び止めるなよ」
「でもありがと。絶対連絡するから」
「しなくていい」
「白布くん、白布くん」
「今度はなんだよ」

 いい加減解放してくれと言わんばかりの飽き飽きとした声色。今度は私が思い切り笑ってみせた。

「部活、頑張ってね!」
「……言われなくても頑張るっつーの」

(23.02.12)