ろく!
基本は友達と教室でお昼ご飯を食べているし、最近は白布くんと一緒に学食へ行くことも多いから1人で食べるお昼ごはんは久しぶりだった。
「あれ、今日は名字さんひとり?」
食堂内、黙々とご飯を食べていると声をかけられる。顔をあげた先には川西くんがいて、少しだけ嬉しくなる。
「うん。白布くんも仲良い友達も委員会の集まりがあるみたいで。さすがにそこには参加できないからひとりで食べてた」
「じゃあ、ここ座っていい?」
「どうぞどうぞ」
私が返事をするよりも先に川西くんは私の向かいの席に座った。ひとりで食べてて肩身が狭いとは思わないけど、せっかくなら誰かと一緒に食べたいと考えるタイプだから川西くんがそう言ってくれなかったらきっと、私のほうから一緒に食べようと誘っていただろう。
両手を合わせた川西くんは、ちらりと私の右隣の空席へ視線を向けた。そこはいつものだったら白布くんがいるはずの場所。
「最近はふたりが一緒にいるのも見慣れてきたら逆に変な感じする」
「あはは。白布くんが聞いたら即否定しそう」
「あれから賢二郎とは仲良くなれた?」
「白布くんと連絡先は交換したよ。だから私としては着実に仲良くなってると思うんだけど」
返事がないことのほうが多いし、牛島先輩の写真送ってほしいって言われても絶対に送ってくれないけど、授業でわからないところを聞いたら教えてくれた。あと、しらすが好きだってことも。
そっか、と川西くんが言う。その声には優しさか込められているような気がした。
「名字さんはさ、牛島さんの連絡先を教えてほしいんでしょ?」
「そうだよ」
「なんで賢二郎なの?」
川西くんは、その声色のまま私に問う。
「と、言うと?」
「ほら、俺でもいいわけじゃん」
ほら、俺でもいいわけじゃん。
川西くんが言った言葉を頭の中で何度か反芻する。
「……確かに!」
そうじゃん。別に白布くんじゃなくても良いんじゃん! 今更ながら気づいてしまった衝撃の事実に箸が止まる。
「えっ、待って。本当にそのことに今気づいた?」
「うん。全然そんな風に考えたことなかった。そっか、川西くんに聞くっていう手もあったんだよね……。試合、牛島先輩ばっかり見てて、その時白布くんも目に入ってたからクラスメイトだし聞くなら白布くんしないないって思い込んでた……」
「俺も試合に出てたんだけど」
あの日の試合を思い出そうと記憶の箱を探る。
牛島先輩のサーブ。牛島先輩のアタック。牛島先輩のブロック。白布くんのトス。牛島先輩のブロック。牛島先輩のブロック。白布くんのレシーブ。牛島先輩のアタック。川西くんのブロック。牛島先輩のアタック。牛島先輩のサーブ。そうだ。確かに川西くんもいた。
「忘れてたって顔してる。元クラスメイトだと思ってたの俺だけ? 悲しー」
「う……ごめんなさい。本当に本当に牛島先輩がかっこよくて……!」
「うそ、ごめん。そこまでいくと逆に清々しくて何も思わないから」
川西くんは言葉通り何も思わないのか、焦る私を楽しそうに笑うだけだった。
「それで、俺に聞こうとはならないの?」
川西くんのそれは、悪魔の囁きにも似ていた。このまま白布くんを攻略するのは難易度が高いし、川西くんに頼るのもありなのかもしれない。
「川西くん、牛島先輩の連絡先教えてくれるの?」
「一応牛島さんに確認はするけど、許可もらえたら全然教えてあげる。どうする?」
牛島先輩への道に光が差し込む。
「じゃ、じゃあお願――」
お願いしますと言いかけた時、視界の隅に白布くんの姿を捉えた。委員会の仕事が終わったのだろう、注文の列に並ぶ後ろ姿を見つめる。
あの日の宣言からもう3週間くらい。白布くんから牛島先輩の連絡先を聞くのは多分、すごく難しい。これからも距離は全然縮められないかもしれない。もしかしたら嫌われる事だってあるかも。
でも白布くんと連絡先を交換してもらえた。好きな食べ物を知ることも出来た。
「……やっぱり、いいや」
「え?」
川西くんを見つめる。
「白布くんから聞く。いつ聞き出せるかわかんないけど、白布くんに聞こうって決めたのは私だから、白布くんに迷惑かからない程度に頑張ってみる」
だって私、もっと白布くんと仲良くなりたい。
「そっか。ちょっと意外」
「意外? あ、でも白布くんに本気でうざがられたら川西くんに頼っちゃうかもそれないけど……でもやっぱり白布くんの迷惑にならないうちは……え、もしかしてもう迷惑になってるのかな!?」
「よくわかってんじゃねぇか」
慌てる私の背後で白布くんの声がした。
「白布くん! 聞いてたの?」
「聞こえてたんだよ」
私の隣に座った白布くんはいつものように黙々とご飯を口に運ぶ。
「や、やっぱり迷惑すぎて無理……?」
「まあな」
「う……!」
「でも名字はそんな簡単に諦めないだろ」
「え?」
「名字のしつこさだけは俺も理解したからな」
褒められて……るわけではない。
川西くんは口角を上げてどこか楽しそうに私たちを観察している。
「……もう少し迷惑かけても良いってこと?」
白布くんは何も言わない。
だけど、まだ。
もう少し。
あとちょっと。
その沈黙は、白布くんと仲良くなる為にまだ頑張ってもいいんだって思われている気がした。
(23.02.12)
「あれ、今日は名字さんひとり?」
食堂内、黙々とご飯を食べていると声をかけられる。顔をあげた先には川西くんがいて、少しだけ嬉しくなる。
「うん。白布くんも仲良い友達も委員会の集まりがあるみたいで。さすがにそこには参加できないからひとりで食べてた」
「じゃあ、ここ座っていい?」
「どうぞどうぞ」
私が返事をするよりも先に川西くんは私の向かいの席に座った。ひとりで食べてて肩身が狭いとは思わないけど、せっかくなら誰かと一緒に食べたいと考えるタイプだから川西くんがそう言ってくれなかったらきっと、私のほうから一緒に食べようと誘っていただろう。
両手を合わせた川西くんは、ちらりと私の右隣の空席へ視線を向けた。そこはいつものだったら白布くんがいるはずの場所。
「最近はふたりが一緒にいるのも見慣れてきたら逆に変な感じする」
「あはは。白布くんが聞いたら即否定しそう」
「あれから賢二郎とは仲良くなれた?」
「白布くんと連絡先は交換したよ。だから私としては着実に仲良くなってると思うんだけど」
返事がないことのほうが多いし、牛島先輩の写真送ってほしいって言われても絶対に送ってくれないけど、授業でわからないところを聞いたら教えてくれた。あと、しらすが好きだってことも。
そっか、と川西くんが言う。その声には優しさか込められているような気がした。
「名字さんはさ、牛島さんの連絡先を教えてほしいんでしょ?」
「そうだよ」
「なんで賢二郎なの?」
川西くんは、その声色のまま私に問う。
「と、言うと?」
「ほら、俺でもいいわけじゃん」
ほら、俺でもいいわけじゃん。
川西くんが言った言葉を頭の中で何度か反芻する。
「……確かに!」
そうじゃん。別に白布くんじゃなくても良いんじゃん! 今更ながら気づいてしまった衝撃の事実に箸が止まる。
「えっ、待って。本当にそのことに今気づいた?」
「うん。全然そんな風に考えたことなかった。そっか、川西くんに聞くっていう手もあったんだよね……。試合、牛島先輩ばっかり見てて、その時白布くんも目に入ってたからクラスメイトだし聞くなら白布くんしないないって思い込んでた……」
「俺も試合に出てたんだけど」
あの日の試合を思い出そうと記憶の箱を探る。
牛島先輩のサーブ。牛島先輩のアタック。牛島先輩のブロック。白布くんのトス。牛島先輩のブロック。牛島先輩のブロック。白布くんのレシーブ。牛島先輩のアタック。川西くんのブロック。牛島先輩のアタック。牛島先輩のサーブ。そうだ。確かに川西くんもいた。
「忘れてたって顔してる。元クラスメイトだと思ってたの俺だけ? 悲しー」
「う……ごめんなさい。本当に本当に牛島先輩がかっこよくて……!」
「うそ、ごめん。そこまでいくと逆に清々しくて何も思わないから」
川西くんは言葉通り何も思わないのか、焦る私を楽しそうに笑うだけだった。
「それで、俺に聞こうとはならないの?」
川西くんのそれは、悪魔の囁きにも似ていた。このまま白布くんを攻略するのは難易度が高いし、川西くんに頼るのもありなのかもしれない。
「川西くん、牛島先輩の連絡先教えてくれるの?」
「一応牛島さんに確認はするけど、許可もらえたら全然教えてあげる。どうする?」
牛島先輩への道に光が差し込む。
「じゃ、じゃあお願――」
お願いしますと言いかけた時、視界の隅に白布くんの姿を捉えた。委員会の仕事が終わったのだろう、注文の列に並ぶ後ろ姿を見つめる。
あの日の宣言からもう3週間くらい。白布くんから牛島先輩の連絡先を聞くのは多分、すごく難しい。これからも距離は全然縮められないかもしれない。もしかしたら嫌われる事だってあるかも。
でも白布くんと連絡先を交換してもらえた。好きな食べ物を知ることも出来た。
「……やっぱり、いいや」
「え?」
川西くんを見つめる。
「白布くんから聞く。いつ聞き出せるかわかんないけど、白布くんに聞こうって決めたのは私だから、白布くんに迷惑かからない程度に頑張ってみる」
だって私、もっと白布くんと仲良くなりたい。
「そっか。ちょっと意外」
「意外? あ、でも白布くんに本気でうざがられたら川西くんに頼っちゃうかもそれないけど……でもやっぱり白布くんの迷惑にならないうちは……え、もしかしてもう迷惑になってるのかな!?」
「よくわかってんじゃねぇか」
慌てる私の背後で白布くんの声がした。
「白布くん! 聞いてたの?」
「聞こえてたんだよ」
私の隣に座った白布くんはいつものように黙々とご飯を口に運ぶ。
「や、やっぱり迷惑すぎて無理……?」
「まあな」
「う……!」
「でも名字はそんな簡単に諦めないだろ」
「え?」
「名字のしつこさだけは俺も理解したからな」
褒められて……るわけではない。
川西くんは口角を上げてどこか楽しそうに私たちを観察している。
「……もう少し迷惑かけても良いってこと?」
白布くんは何も言わない。
だけど、まだ。
もう少し。
あとちょっと。
その沈黙は、白布くんと仲良くなる為にまだ頑張ってもいいんだって思われている気がした。
(23.02.12)