02
「我が王よ、偉大なる魔法使いよ、貴方の願いを叶えます。
巨万の富も幾億の星々の支配も永遠の命でさえも思いのまま、さあ、貴方の願い事はなんだ?」
「僕の願いは――」
オアシス都市ウータン近くの砂漠を歩いている少年がいた。少年の名はアラジン。
聖宮から外の世界へ出てきたばかりのマギ――無尽蔵のルフを使役する創世の魔法使いだ。
「うぅ〜困ったな、お腹も減ったし、喉も渇いてきたよウーゴくん」
フラフラと歩きながら首にぶら下げた笛に語りかけるアラジンはふと前方に倒れている人影の様な者を見つけた。
近づいて見てみるとそれはまだ幼さの残る人間の少女だった。ふわふわとした白いワンピースに身を包んだ、美しい少女だ。
しかしその顔に血の気はなく、まるで死んだように目を閉じ眠っている。
「大変だウーゴくん!綺麗なおねいさんが倒れているよ」
アラジンは八芒星が描かれた笛に語りかけながらもその場に膝をついて少女の体を揺すった。
「おねいさん、おねいさん!起きておくれよ!こんな所で眠っていたら干からびて死んでしまうよ」
ゆさゆさ、ぺちぺち、ぐいぐいと揺らしたり頬に軽く手を当ててみたり衣服を引っ張ったりと出来ることを試していると、その成果もあってか目を閉じていた少女の眉間にグッとしわが寄った。
ゆっくりと少女の瞳が開く。青い宝石の様な瞳がアラジンの瞳と交差した。
「…こ、こは…?」
「よかった!目が覚めたんだね、おねいさん」
ぼやっとする意識の中状況を掴めていない少女、エリザは目の前のアラジンを目にハッと体を起こした。
ここはどこなのか。見たところ、本で見たことのある砂漠という場所に似ているが確か自分は――
「体の方は大丈夫かい?おねいさんはさっきまでここで倒れていたんだよ」
アラジンがエリザの顔を覗き込んでそう問い掛けてきた。しかしエリザの頭の中はそれどころではなく、何がなんだかさっぱりで。
生きているはずがない。あの時、自分は大好きだった母に崖から突き落とされて死んだはずなのだ。
なのに、なぜ擦り傷一つなくこんな砂漠の真ん中にいるのか。
しかしそれよりも真っ先にエリザの頭の大部分を占めたのは死ぬ直前の母の言葉だった。
結局のところ母も父や姉と同じだった。最初から自分を愛してくれてなどいなかった。
こんな気味の悪い力を持っているのだから化け物と呼ばれるのも致し方ない。
けれど、けれどやはり悲しくて惨めで仕方がない。もう誰も自分を庇ってくれる人はいない。受け入れてくれる人は、いない。
ぽろぽろと砂漠の上に涙が溢れるが、砂漠の砂が数秒もしない間に目からこぼれ落ちる滴を吸い込んでいく。
「はい、おねいさん」
「…?」
ハンカチのようなものを差し出してきた青髪の少年にエリザが目に涙を溜めながらようやくその瞳の中心にアラジンを映した。
「よかったら使っておくれよ」
そう言って微笑んだ少年にエリザの瞳が見開かれる。それはそう、いまだかつて母以外の人にこんな事をしてもらった試しがなかったからだ。
自分は疎まれていた王女だったから――。
初めての優しさにどうすればいいのかとオロオロしていたエリザ。
そんなエリザを見かねたアラジンは嫌な顔をするのではなく、むしろどういったわけか謝ってきたのだ。
「ごめんよおねいさん こういう時は僕が涙を拭いてあげるんだったね」
フワッと柔らかい布がエリザの目元を覆う。涙が布にシミを作り、それが目元から離れる頃にはもうエリザの目に溜まっていた涙は消えていた。
「……あ、りがと」
「ふふっ、どういたしまして!」
無邪気な笑顔でそう言ったアラジンにエリザはどんな表情をしたらいいかわからず、再び頼りなさそうにオロオロとし始めた。
「僕はアラジン 旅人さ!おねいさんの名前は?」
「名前…エリザ」
それは運命的な出会いだった。
ソロモンに導かれこの世界にやってきた少女エリザ。
そしてソロモンの映し身たるアルマトランのマギ・アラジン。
二人の出会いを祝福するかのように周囲のルフが彼らを包むように取り囲んだ。