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偽りだらけの僕を


翌日、僕は時間きっかりに薬局の前に到着した。

「安室さん、こんばんは」

「お待たせしてすみません」

「じゃあ、始めましょうか」

僕はみょうじ先生がカルテを書き換えている間、彼女をじっと見つめていた。

猫のように少しつり上がった目尻は、今はいない旧友を思い出させる。
サラサラと肩に掛かる黒い髪は、指通りが良さそうだ。髪とは正反対の白い肌に、長い睫毛に縁取られた吸い込まれそうな鳶色とびいろの瞳と、ぷるんとした韓紅からくれないの唇。

決して派手ではないが、美人である。大和撫子と言った方がしっくりくるかもしれない。

彼女はあっという間に、“安室透”のカルテが完成させた。

「これで終わりですね」

「ええ、ありがとうございます」

「では、私はこれで」

奥に引っ込もうとする彼女の華奢な手首を思わず掴む。
微かに規則正しい拍動が伝わるそれは、僕が少し力を入れると折れてしまいそうなほど細かった。

「何ですか?」

「あの、今日はちゃんと家まで送らせてもらえませんか」

「何故?」

「貴女と、もっとお話がしたくて」

彼女は心底呆れたといった顔をした。
軟派な男だと思われただろうか。

「そんなに必死に監視下に置かなくても…ペラペラ喋ったりしませんよ」

「その言葉、そっくりそのままお返しします。別に取って食ったりしませんから」

「安室さんって変わってますよね…あなたほどの見た目なら選び放題でしょうに」

猫のような瞳が僕の視線と絡む。
みょうじ先生ほどのスペックで、おまけに男慣れしていないとなれば通常取り合いは必至だが、彼女は薬局という女性が多くて狭い職場で働いているが故にそういったことには殊更疎いようだった。

「僕は“貴女と”話しがしたいんです。行きましょう、こんな時間まで働いていたらそろそろお腹も空いてるんじゃないですか?」

そう言うと、みょうじ先生はやっと大人しく頷いてくれる。
彼女がファミレスでいいと言うので、近所のダニーズで遅めの夕食をとる事にした。

「みょうじ先生は、お昼はどうされてるんですか?」

「あまり食べないです。空腹時の方が頭が冴えますから」

シャーロックホームズのような言い訳をする人だ思ったが、敢えて口は挟まなかった。
彼女はぽつりぽつりと話はしてくれたが、全て当たり障りがない内容だった。

まぁかなり警戒心が強いようだから、仕方ないか。今日は僕の負けだ。

彼女が“家の近く”だと言うところまで送り届ける。

「今日はご馳走様でした」

「今度はポアロにも来てくださいね」

今日得られた情報は、みょうじ先生が僕より一つ年上であるということと、彼女がコーヒー好きということだけだった。
最大の成果は連絡先か。

彼女の後ろ姿が見えなくなるまで見送って、僕は車を発進させた。