
ポアロに出勤してから暫くして、子供達の元気な声とともに入り口のドアが開かれた。
少年探偵団の3人が手を引っ張っているのは、今朝会ったばかりのみょうじ先生だった。
恋のキューピッドになりたい、という彼ら。
困惑する彼女が可愛くて、思わず意地悪をしてしまった。
照れてトマトのように真っ赤になる顔を見て、意外さと同時にこんな顔をさせたのが自分であることにわずかな優越感を感じたのも事実だった。
僕がデートの約束を取り付けたことに満足した彼らは、博士のところに行くと店を出て行った。
「ねぇ、ゼロの兄ちゃん」
コナンくんが僕にしか聞こえないような声で話し掛けてきた。振り向くと、あの眼鏡の奥の挑発的な瞳が、しっかりと僕を捉えている。
「なんだい?コナンくん」
「あのお姉さんと…いつから知り合いなの?」
含みのある口調で彼が言うものだから身構えるが、どうも僕がみょうじ先生と知り合いなのが腑に落ちないようだった。
ならば僕にカマをかけている、というのが正しいだろう。彼女が僕と同じ組織の人間なのかを疑っているのだろうか
「あぁ…先週、僕がインフルエンザで休んだのは梓さんに聞いているだろう?偶々薬を貰いに入ったのがみょうじ先生の薬局で、あの時は随分と迷惑を掛けてしまったから、今日はそのお礼にご馳走しようと思って、無理を言って来てもらったんだ」
「…え?」
コナンくんはとても驚いたような顔をした。だからなんだと言うのだ。今回は嘘は吐いてないし隠し事もしていないぞ。
「みょうじ先生がどうかしたのかい?」
「あ、う、ううん、なんでもない!安室さんまたね!」
逆に試すように僕が問い返すと、コナンくんは誤魔化すように首を振り、店から出て行った。
僕がみょうじ先生にご馳走するためのハムサンドとコーヒーを作るためにカウンターの中に入ると、今度は梓さんが目を輝かせてこちらへ寄って来る。
「安室さん!あんな美人さんといつの間に付き合い始めたんですか!?」
「あ、いや。まだ付き合っているわけではないんですが」
「なんだぁ〜グズグズしてると誰かに持っていかれちゃいますよ!」
梓さんがみょうじ先生の方を見遣ったので、僕もつられてそちらに目線を向ける。
窓から外を見る彼女は、まるで絵から抜け出してきたようだった。
僕はコナンくんのあの表情が引っかかったまま、彼女を見つめていた。
まるで僕が彼女のことを昔から知っているような口ぶりだったのが気になるが、インフルエンザで休んでいる間に少し調べた限りではおかしいところは特になかったはずだ。
しかし今、僕の中で優先すべきは彼女ではなく、赤井の調査であった。彼女の事は、全てが終わってからだと言い聞かせて僕は安室透に徹することにした。