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勇気に満たされたい


部下の声が聞こえなくなったので僕は我に返り、声を張り上げた。

「おい?どうした?状況は!?応答しろ!!」

『久しぶりだな…バーボン…いや…今は安室透君だったかな?』

電話口からは、部下の声ではなくあの憎々しい声が響く。

赤井…秀一…

『君の連れの車をオシャカにしたお詫びに…ささやかな手土産を授けた…楠田陸道が自殺に使用した拳銃だ…入手ルートを探れば何かわかるかも知れん…ここは日本…そういう事はFBIわれわれより君らの方が畑だろ?』

「まさかお前、俺の正体を!?」

僕の心臓はドキリと嫌な鼓動を立てた。
赤井は事も無げに言った。

『「ゼロ」とあだ名される名前は数少ない…調べやすかったよ…降谷零君…恐らく俺の身柄を奴らに引き渡し、大手柄をあげて組織の中心近くに食い込む算段だったようだが…これだけは言っておく…』

『目先の事に囚われて…狩るべき相手を見誤らないで頂きたい…君は、敵に回したくない男の1人なんでね…それと…彼の事は今でも悪かったと思っている…』

『最後に…君が最近懇意にしているお姫様は我々が預からせてもらった』

みょうじ先生の顔が頭を過ぎり、僕は全身の血が沸騰しそうなほどの怒りを覚えた。僕と少し親しくしていたというだけで、彼女を巻き添えにしたというのか。

「赤井…!」

『眠り姫は君が思い出の中の“ゼロ”だと気付いていなかったようだが…まぁ、君も彼女に気づいていなかったようだし、過失の割合は50:50フィフティフィフティだな…』

「彼女は今どこだ!」

『君が侵入した工藤邸…広い庭があるようだな』

「!」

『さっさと早く迎えに行ってやるんだな、王子様』

「チッ…!」

『よし、キャメル 車を出せ…』

遠くでそう聞こえたのを最後に、大きなエンジン音とともに赤井の声は聞こえなくなった。

公安の仲間達を撤収させた後、僕は工藤邸の庭を探す。

先程は正体がバレたショックで頭が真っ白になっていたが、最後に赤井に言われた言葉を思い出す。

『彼女は君が思い出の中の“ゼロ”だと気付いていなかったようだ』

『ゼロ、また喧嘩したの?』

“なまえ”

彼奴が言ったことと、僕の奥底に眠っていた記憶がやっと繋がる。

やっと、思い出した。

最近、夢に何度も現れた彼女の名前。
僕をゼロと呼ぶ女の子は、なまえしかいなかった。

態とらしく周囲が踏み荒らされた草叢の中を覗くと、手足を縛られた彼女が倒れていた。

「なまえ!」

呼びかけても反応がない彼女を抱き起こし、手足を縛る紐を切る。
頸に手を当てると、規則正しい脈拍音が伝わりほっと息を吐く。

抱き上げた彼女は羽根のように軽かったが、温かかった。

生きている…それだけで安堵して涙が出そうだった。

「巻き込んですまない…」

僕の謝罪は、漆黒の闇に消えた。