
「ハロ…シー!」
僕はなまえを自宅に連れ帰った。
彼女の家は教えてもらっていないので、連れて帰りようがなかったのだ。
大好きなお姉さんが来たことがわかったハロが吠えそうになるのをジェスチャーで黙らせて、僕はなまえをベッドに寝かせた。彼女が寝ているのをいいことに、僕はその顔をじっくりと観察する。
何故今まで気づかなかったのか。
この特徴的な瞳には見覚えがあった筈だ。思い出の中よりもずっとずっと美しくなったその顔に、まるで高校生のようにドキドキして。
恋い焦がれた幼馴染相手に再会…なんて、漫画や映画の中だけだと思っていたけれど…
早く、目を覚まして欲しい。
そうしたら、僕がどれだけ君に恋い焦がれたか教えてやるんだ。
「ん、」
どれくらいそうしていただろう。
彼女が身動ぎをしたので僕は彼女の顔を覗き込む。
焦点の合わない瞳が僕を捉えた。
「…ぜろ?」
「なまえ!」
僕の声で完全に覚醒したのか、彼女は慌てて起き上がる。
「あ、安室さ…ごめんなさい、人違いで、」
言いかけた彼女を思い切り抱きしめた。
「ゼロだよ、なまえ。今まで気づかなくて…ごめん」
「!?」
僕の腕の中で彼女が身を固くするのが分かる。
「巻き込んですまない…もっと早く気づいていれば」
「待って…あなた、本当にあのゼロなの?」
なまえに押し返されるまま僕は身体を離し、彼女を真っ直ぐに捉えた。
「宮野エレーナ先生。喧嘩ばかりして怪我だらけだった僕と、そんな僕をいつも叱ってくれたひとつ年上の…ピアノが得意な女の子」
僕は、僕たちしか知り得ないはずの情報を紡ぐ。
彼女の手が、僕の頬に触れた。
「うそ、」
「ていうか普通気づくだろ…」
「なっ、私のせいってわけ?ゼロこそ私の名前で分からなかったの?!」
「そ、それは…」
ごめん、と小さく謝って視線を落とすと、なまえの細い肩が震えていることに気づく。
泣かせてしまったかと慌てて顔を上げれば、彼女は笑っていた。
「ふっ、ふふ…感動の再会が喧嘩なんて、私達らしいわね」
その笑顔を見た瞬間、胸が苦しくなる。
心から愛おしいと思った。
感情に流されるまま、僕は彼女を抱きしめた。
「ゼロ?ちょっと、苦しいよ…」
「
そう呼んで欲しいと、願いを込めてぎゅうぎゅうと彼女を抱き締める。
「どうしたのよ、急に」
「こんな時に言うのもどうかと思うんだけど…好きだよ、なまえ」
「………ちょっと待って、本気?」
「嘘言ってどうするんだよ…」
なまえがおずおずと僕の背中に手を回した。
その顔を覗き込もうとすると、彼女はぎゅうぎゅうと僕の胸に顔を押し付けて見られないよう抵抗する。
「だめ…今、顔真っ赤だから見ないで」
そんな可愛いことを言われたら意地悪したくなるではないか。
「それは聞けないお願いだな」
僕は彼女の身体を離して、その唇を掠め取る。
「〜〜ッ!」
彼女が固まった隙に、彼女の顔を覗き込んで体調を確認する。
「すまない、確認だけさせて欲しい。何があった?あいつに何もされてないか?」
「…仕事が半日で終わって、歩いて帰る途中に背が高い男の人に声を掛けられて…薬品を嗅がされて意識が遠のいたところまでは覚えてる」
「知ってる男だったか?」
「ううん。黒いニット帽で碧眼、癖毛で目尻に特徴があったくらいしか…」
「…充分だ、ありがとう…そういえば、コナンくんに僕のことを喋ったか?」
「コナンくん?零のことは話してない、けど…」
「けど?」
彼女が言い辛そうに俯くので、僕は促すように彼女の頭を撫でた。
「ゼロのことは、話した、かな」
「?」
訳がわからず変な顔をした僕と、どんどん真っ赤になっていく彼女。
「は、初恋の人のあだ名が、ゼロだって話!」
「〜ッ!」
コイツはなんて爆弾を落としてくれるんだ。あの憎たらしい赤井から話は聞いていたが、本人から聞くと愛おしさが溢れ出してくるから不思議だ。
湯気が出そうなくらい真っ赤になった彼女は、とうとう顔を両手で覆ってしまった。
「なまえ、可愛い。顔見せて」
「やだ」
やだと言いながら、抵抗は弱々しかった。彼女の手を退けさせて、僕は彼女と向かい合う。
「大切にする。何があっても絶対守るから一緒にいて欲しい」
「零、私、めんどくさい女だよ?」
「知ってる」
「美人じゃないし、気は強いし、年上だし…」
「あぁもう、うるさいな」
僕は強引な口付けでなまえの唇を塞ぐ。
「全部引括めてお前のこと好きなんだから、黙って守られてろよ」
「もう昔みたいに怪我したら許さないから…」
彼女が仕返しとばかりに僕に口付ける。
僕達は笑いながら、ベッドの上に縺れ込む。
「なまえ…明日、仕事は?」
「あるよ」
「朝、僕の車で送ってやるから今は寝ろ…今度こそ住所、ちゃんと教えろよな…」
「うん…ねぇ零」
「ん?」
「ありがとう」
「あぁ」
彼女は僕の胸に顔を埋め、暫くすると規則正しい寝息が聞こえてきた。
僕は彼女のサラサラの髪を撫でながら、ゆっくりと眠りに落ちていった。